日本の税制 何が問題か 森信茂樹著 ~すっかり取り残された問題点を浮き彫りに
冷戦終了後の先進各国における税制の変化は著しい。新興国が台頭し、一方でヒト、モノ、カネの自由な移動が進む中、成長を志向し、自国へ経済資源を引き付けるため、法人税率や所得税最高税率の大幅な引き下げが行われた。所得課税から消費課税へのシフトや金融所得に対する分離・低率課税の採用も、成長を志向した税制改革の一環である。同時に、そこから生じる格差を是正するため、給付付き税額控除など公平を志向する税制の導入も進められた。
この間、日本の税制はまったく手直しが行われなかったわけではないが、先進各国にすっかり取り残された印象がある。目先の景気刺激にばかり気を取られ、長期的な成長を高めることは二の次とされた。といって「公平」や「簡素」が追求されたわけでもなく、それらの観点からの問題はむしろ膨らんだ。
本書は日本の税制について、理論や歴史などを含め包括的に論じたもので、その問題点を浮き彫りにする。今後の税制改革を考えるうえでの必読書であろう。一般に税制は難解だが、それをわかりやすく解説している。といって正確さはまったく損なわれていない。
基幹税がそれぞれ独立して取り上げられているが、特に所得税に紙幅が割かれている。本来、よい税とは、「広く薄く」であるはずだが、現在の所得税は「狭く薄い」状態で、税収基盤が大きく損なわれ最高税率や消費税率の単純な引き上げだけでは問題が解決しないことが示唆される。また、少子高齢化が加速する日本では、社会保障制度との一体改革が不可欠であり、その方策の一つが給付付き税額控除であることが示される。
少子高齢化の最先端をいく日本は、それに対応した税制改革においても世界のフロントランナーとならなければならない。
もりのぶ・しげき
中央大学法科大学院教授、ジャパン・タックス・インスティチュート所長、東京財団上席研究員。1950年生まれ。京都大学法学部卒業後、大蔵省入省。主税局総務課長、大阪大学教授、東京税関長、財務総合政策研究所長などを経て財務省退官。
岩波書店 3360円 342ページ
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