イノベーションの知恵 野中郁次郎・勝見明著 ~場に即した最高の解を見いだすための事例集

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 事例の一つひとつがユニークであり、示唆に富む。京都堀川高校の二兎を追う試み、霞ヶ浦のアサザによる浄化、社会福祉法人・むそうの知的障害者活用の仕組み、銀座のミツバチプロジェクトなど、あまり知られていない事例が感動的だ。一つだけ例を挙げると、「重い障害を持った人たちがいつか亡くなったとき、まちのみんなが大泣きをする。目指すのはそんな地域のあり方」と語るくだりがある。

冒頭の「演繹的、論理分析的アプローチからはイノベーションは生まれない」「登場する(ケースの)主人公たちが、誰にも負けなかったのは、世のため人のためという根源的な思い」「そんなリーダーたちだからこそ、共振・共感・共鳴を呼び起こす」から、巻末の「経営はサイエンスである反面、アートである」、「個と全体が両立する状態にあるとき、組織は最も創造性と効率性を発揮する」などまで、数頁ごとに印象的なコメントが潤沢にちりばめられている。

著者たちのいうコトは「経験」とも表現され、身体性はハイタッチ(高密度の接触性)にも通じる。「リーダーにとって大切なのは場のマネジメント」と言い切る本書は含蓄が深い。

のなか・なおじろう
一橋大学名誉教授、米クレアモント大学ドラッカースクール名誉スカラー、米カリフォルニア大学ゼロックス知識学特別名誉教授。1935年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。

かつみ・あきら
ジャーナリスト。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。経済・経営分野を中心に執筆・講演活動を続ける。企業の組織運営、人材マネジメントに詳しい。

日経BP社 1890円 300ページ

  

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