AT&Tが長距離通話を選んだのは、そのほうが利益が大きいと考えたからだろう。しかし実際には、長距離電話会社が誕生・成長し、激烈な値下げ戦争が始まった(日本における長距離通話料金も図に示すように下落した)。またAT&Tは携帯電話にも対応できなかった。
ビジネスモデル選択の失敗
もちろんAT&Tはインターネットの成長に手をこまぬいていたわけではない。98年にマイケル・アームストロングがヒューズ・エレクトロニクスの会長からAT&Tの会長兼CEOに迎えられ、CATV(ケーブルテレビ)を中心とした総合情報通信企業への転換を目指した。彼は80年代に低迷していた欧州IBMを立て直した実績の持ち主である。インターネットで大量の情報を安く送るには、既存のケーブル網を活かせるCATVが最適と考えられたからだ。ケーブル網という「土管」を支配すれば、電話料金、インターネット接続料、電子商取引の手数料なども手にすることができると見込まれていた。このためAT&Tは10兆円を超える巨額の資金を投じてケーブル会社を買収し、アメリカ最大のケーブル網企業となった。
しかしその後、圧縮技術の進歩によって、既存の電話線を用いるDSL(デジタル加入者線)でもケーブル並みの大容量情報を送れるようになった。さらに携帯電話技術の進歩によって、無線でも大容量通信ができるようになった。そうなると、既存の電話網を持つ地域電話会社や無線網携帯電話会社のほうが有利になる。