AT&Tの衰退は、表面的には反独占訴訟によって分割されたためだ。しかし基本的な原因は、技術の大変化に対してビジネスモデルを転換できなかったことにある。仮に政府による解体がなかったとしても、AT&Tは凋落したことだろう。
インターネットが世界を変えた
AT&Tの根底を揺るがしたのは、インターネットという新しい通信方式の成長である。
インターネットは、ランド研究所のポール・バランらによって60年代に発明された「パケット通信」という方式を用いている。これはデータをいったん「パケット」(小荷物)に分けて交換機の記憶装置に蓄積し、通信回路が空いている時間にバラバラに送信して受信側の交換機に蓄積する。それを再び元のデータに組み直して、相手先に届ける方式である。
通信中に回線が占有されることがなく、またどの経路をたどっても構わないので、通信回線を効率的に利用することができる。電話は両者が沈黙しているときでも回線を占拠しているわけだから、いかにムダな使い方かがわかる。
インターネットによって、地球規模で通信をほぼ無料で行うことが可能になった。これは距離に関するわれわれの観念を変え、世界の経済活動を基本から変えた。電話の時代にはありえなかった分業体制が可能になったのだ。アイルランドやインドの驚異的な経済成長は、インターネットなくしてありえない。
ところで、インターネットに対して電話が不利なのは、長距離通話においてより顕著だった。インターネットのコストは距離に関係がないが、電話では長距離は高価だからだ。