北朝鮮、始まった市場経済への転換 金第1書記が「独立採算制」の実施を指示

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金正恩第1書記時代に入った2012年以降、北朝鮮の経済政策は徐々に市場主義的、資本主義的な性格を帯びつつあった。企業所などでの独立採算制の拡大や協同農場での運営方法に一定の自律権を与える「圃田(ほでん)担当制」、経済開発区の制定などがその代表的なものだ。

このような「5.30措置」と呼ばれるような動きを最初に紹介したのは、中国・北京大学の金景一教授だ。金教授は韓国紙『ハンギョレ』(2014年9月22日付)に寄稿した「北朝鮮の静かな変化と南北関係」において、「5.30措置と呼ばれる新たな処置が出され、北朝鮮のすべての工場と企業、会社、商店に自律的な経営権が与えられた。生産権や分配権に続いて貿易する権利まで、本来は国家の役割だった権力が与えられ、工場や企業の独自的な自主経営権として定着している」と紹介している。

企業や工場での自主経営権を付与

また、韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授も「アルジャジーラ」への寄稿「Reforming North Korea」(2014年11月30日)で、「ついに北朝鮮が中国式の経済改革を始める決心をしたようだ」と触れている。ロシア出身で北朝鮮の金日成総合大学に留学経験を持つランコフ教授はこの寄稿の中で「5.30措置」を「革命的」と指摘、それによって農業生産の増大や工場経営の自主経営権が拡大されていると述べている。

金正恩の時代に入ってからこれまで、北朝鮮国外では「さまざまな経済措置が北朝鮮で始められた」と指摘されてきた。2012年には「6.28方針」「12.1措置」という、工業・農業分野での自律権の拡大や個人投資の許容(6.28措置)、「支配人責任経営制度」とそれによる独立採算制の導入が行われているといった内容が指摘されてきた。

さらに2013年には「3.1措置」が始まったとされ、企業所や工場に外貨口座を開設させ、さらに外貨レートを市場(実勢)価格に反映させた変動相場制を適用するものとされていた。今年になって「5.30措置」が出されたのではという指摘が相次いでいた。

ただ、それらの指摘を後押しする証拠が、北朝鮮側から出てこなかった。その点で、全文ではないものの、今回の論文は「5.30措置」といったものが出されたことを裏付ける論文となっている。

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