世紀の空売(からう)り 世界経済の破綻に賭けた男たち マイケル・ルイス著/東江一紀訳 ~市場の非効率性を逆手にサブプライムで儲ける
信念を持って逆張りの相場を張り、大儲けした少数の投資家のストーリーである。市場の非効率性を誰よりも先に予見して大儲けした、一握りの人々を紹介している。舞台は一兆ドル超の損失を米国経済に与えたといわれるサブプライム・モーゲージ市場。俳優は法律家から証券アナリストに転向したスティーブ・アイズマン、もともと精神科医であったマイケル・バーリといった、世にまったく知られていなかった予言者たちだ。
この市場でショート(空売り)が可能であったのは、サブプライム・モーゲージ債権のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という奇怪な商品とCDO(モーゲージ・ローンを担保に発行された証券)による。でたらめな市場を作った者、育てた者の悪意は限りないが、証券に対する正しい格付けと正常なプライシングを行わなかった者の罪も大きい。
「ウォール街の投資銀行があの手この手で格付け機関を丸め込み、くずみたいなローンの山にきれいなレッテルを貼らせたせいで、数兆ドルもの資金が普通のアメリカ人に貸し付けられるに至った。そういうローンから一見リスクのない有価証券が生み出され、あまりに複雑なその成り立ちのせいで投資家たちがリスクの評価を諦めてしまい、破滅的な終局を呼び寄せて、社会と政治に大きな影響を及ぼすまでになった」。まさに本書を要約する台詞である。
注釈も面白い。「顧客を利用するという大きな誘惑」が伴う自己勘定取引や利益相反防止のためのチャイニーズ・ウォールを自ら弁護する投資銀行幹部への批判などが満載だ。
「詰まるところ、CDOの価値はゼロか百のどちらかなのだ」という著者の指摘に日本国債市場が頭に浮かんだ。二つの市場に類似点は多い。
文芸春秋 1890円/388ページ
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Michael Lewis
アメリカを代表するベストセラー作家。1960年生まれ。プリンストン大学で美術史の学士号を、ロンドン大学で経済学の修士号を取得。3年間勤めたソロモン・ブラザーズを辞めた後、体験を基に書いた『ライアーズ・ポーカー』で作家デビュー。
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