ドコモ、復活のヒントは「創業期」にあり! 初代社長の「経営哲学」に学ぶ
<インタビュー1> iモードの元となるコンセプト
誕生時のNTTドコモは、売り上げ規模はNTTグループの3%程度で赤字。NTTで自動車電話や携帯電話を10年以上販売していたが、ほとんど売れておらず、携帯電話の普及率は1%程度だった。
安定したNTTからちっぽけな赤字会社に移った社員は不安に思っていた。ただ、私は携帯電話が売れないはずがないと確信していた。社会が豊かになると人間の行動半径は必ず広がる。そうするとすき間の時間は増えるはずだし、出先から連絡する必要もある、コミュニケーションの欲求が高まるからだ。
加入者から寄せられた苦情処理票を自ら読み込んでマーケティング理論で分析すると、「つながらない。すぐ切れる」という不満が圧倒的に多いことがわかった。自動車電話からスタートした携帯電話は、無線基地局が道路沿いにしかなく、面のカバーが弱かった。すぐに「予算は青天井でいい」とネットワークを張り替えさせた。
トップに求められる“コンセプチュアルスキル”
高額だった端末保証金を廃止、加入料や通話料金を引き下げたら、価格弾性理論どおり需要は爆発した。端末販売をドコモの直販体制から代理店方式に切り替えた。持っている知識を最大限使ってドコモを急成長させた。
携帯電話はどんどん売れるようになったが、携帯電話そのものは水道の蛇口でしかない。ネットワークは水道管のようなもので、それ自体には何の付加価値もない。いずれ蛇口が行き渡ってしまえば、市場は飽和して、ドコモの成長も止まる。
そうならないために、水=情報を処理して付加価値をつける必要がある。そう考えて「ボリュームからバリューへ」と経営戦略の転換を打ち出した。
パソコンはどんどん小さくなって携帯電話の中に入る。付加価値の低い音声通信から、潜在ニーズが大きく付加価値の高い情報・知識・エンターテインメントを流通させて、携帯電話で楽しむという「モバイル・コンピューティング」というコンセプトを打ち出し、それが実現できるようにネットワークをパケット通信対応に切り替えた。
このコンセプトから生まれたのがiモードだ。現場の人間が2年半かけて使いやすいものを作った。
社会学者のエズラ・ボーゲルは、トップに求められるスキルは“コンセプチュアルスキル”だと言っている。企業が継続的に成長するにはイノベーションが必須。そしてイノベーションを生むために、トップがコンセプトを示す必要がある。