次に②のカジノ運営による経済波及効果については、佐和良作・田口順等が詳しい分析を行っている(「カジノ開設の経済効果」『大阪商業大学論集(第5巻第1号)』)。佐和・田口論文は、カジノに対して日本人が米国人と同様の行動パターンを取るとの前提で、地域別のカジノの潜在市場規模と経済波及効果を試算している。その結果、関東地区では1兆0665億~2兆8648億円の経済効果(付加価値)が生じると見込まれている。近畿地区であれば2903億~3658億円となる。
以上を踏まえると、①と②の合計で4兆円程度、ないしは外国人観光客のさらなる増加でそれを上回る経済効果が生じる可能性もある。
カジノ導入によるマイナス面の検証と対策も不可欠
日本でカジノ・IRを開設するならば、オリンピックイヤーである2020年に間に合わせることが望ましい。オリンピックの開催は、日本が世界から注目され、世界に対する情報発信力が高まる絶好の機会であるからだ。この機会に観光地としての日本の魅力を向上させ、オリンピック開催後も継続的に観光需要を取り込めるよう、準備を重ねるべきである。
一方で、ギャンブル依存症になる者の増加、多重債務者の増加、青少年への悪影響、治安の悪化など、カジノ開設によるマイナス面を指摘する声が根強いことにも、十分に配慮することが必要だ。実際、ある新聞社が実施した世論調査によると、カジノ合法化に対して「反対」の意見が6割にも上る。
このような一般の人の意見だけでなく、政治家の間でも意見が割れている状況であるから、カジノ導入によるマイナス面も十分検証するとともに、対策を講じることは不可欠である。
たとえば、シンガポールでは自国民に対してカジノに100シンガポールドル(日本円で8000円程度)の入場料を課しているほか、失業者や生活保護受給者の入場を禁止することで、ギャンブル依存症になる者の増加を抑制している。さらに、カジノの売り上げから徴収した税収増加分を、ギャンブル依存症対策委員会の設置や、依存症を患う者に対するカウンセリングの機会を提供する組織の支援などにも充てている。こうしたギャンブル依存症対策を講じた結果、シンガポールではカジノ導入前後でギャンブル依存症患者数に大きな変化はなかったとの報告もある。
カジノ導入にはプラス・マイナスの両面がある。適切な規制を設け、地域社会の理解と協力を獲得していくことも、カジノビジネスの成功には必要となるだろう。
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