弥生は、なぜオリックス傘下に入るのか 岡本社長が語る800億円買収の背景

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――企業文化も似ているところがありますか。

その点は大きく違います。オリックスは、営業型の会社であり、直販部門が販売に出向くというスタイルです。しかし、弥生は、私たちから直接販売に出向くということはありません。

弥生の製品やサービスは、小規模事業者が利用できる価格体系になっていますから、営業担当者が直接出向いて販売しても利益を得られる仕組みにはなっていない。購入していただくための仕組みを作るマーケティング型の組織なのです。営業中心のプッシュ型組織と、マーケティング中心のプル型組織という点では大きな違いがあり、ここは、むしろ好対照な部分だといえます。

しかし、見方を変えれば、これはオリックスにとって、弥生が魅力的に映る部分ではないでしょうか。プッシュ型の組織では、ある一定規模のお客様にしかアプローチができない。営業コストをかけても採算が取れないということになるからです。オリックスが持つ所有権と利用権を分離して、小口化するというのは小規模事業者にとっても魅力があるものですが、オリックスには売る仕組みがなかった。それを弥生が持つプル型の営業/マーケティング体制と組み合わせることで、新たな顧客層に訴求できる可能性が生まれるわけです。

――オリックスの顧客層と、弥生が持つ125万件の顧客層とはどれぐらい重なっているのですか。

オリックスの顧客リストと、われわれの顧客リストを直接比べたわけではないのですが、それほど多くは重なっていないと思っています。

弥生の顧客にオリックスのDM?

――つまり、オリックスグループにとっては、新たな顧客開拓の地盤を手に入れたともいえるわけですが、オリックスグループの製品やサービスに関するダイレクトメールが、弥生の顧客に対して送られるということもありますか。

ツイッターでもそんな書き込みがあったようですが(笑)、弥生は独立した組織として運営しているわけですから、弥生の顧客データベースが、そのままオリックスグループに流れるということはありません。また、弥生の顧客に対して、オリックスの営業手法を単純に持ち込んでもうまくいきません。

仮に、弥生の顧客データベースを使って、オリックスが商品のダイレクトメールを送信しても、数多くのメールのなかに埋もれてしまうだけですし、そこをオリックスの営業部門がフォローすることもできません。大切なのは、顧客の状況を踏まえて、顧客のニーズを捉えた製品提案をしない限り、結果につながらないということ。弥生のユーザーに対して、オリックスのカードローンの申し込みを促しても、そんなに成果はでませんよ。800億円の買収金額は正当化できません。

(撮影:風間仁一郎)

後編は、11月27日(木)に配信します。
大河原 克行 ジャーナリスト

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おおかわら かつゆき

1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。IT産業を中心に幅広く取材、執筆している。現在、ZDNetの「大河原克行のエンプラ徒然」(朝日インタラクティブ)、PC Watchの「パソコン業界東奔西走」(Impress Watch)、クラウドWatch、家電Watch(以上、Impress Watch)、ASCII.jp (KADOKAWA)、日経トレンディネット(日経BP社)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)、「図解 ビッグデータ早わかり 」(中経出版)など。

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