<ビジネスシーン別>デキる!敬語術 鈴木昭夫著 ~真っ当な敬語を教えるただ唯一の書
学生だけでなく、社会人にとっても敬語は難しい。解説本は多いけれど、どうもその解説が腑に落ちない。就活本でも学生に言葉遣いを教えているが、もう使わない用例が紹介されていて違和感がある。研修に使えそうな敬語の本は皆無と言っていい。
国語に対する社会の関心が低いわけではない。今年6月に常用漢字が改定され、「鬱」「俺」が入った。「岡」「栃」「埼」「阪」「奈」「媛」「梨」「阜」「鹿」「熊」は都道府県名で使われている漢字だが、これまで常用漢字ではなかったというから驚いた人は多いはずだ。
「食べれる」などの「ら抜き」表現はすでに定着し、最近は「行かさせていただく」という「さ入れ」表現を問題にする人も多い。
漢字や「ら抜き」「さ入れ」はわかりやすいが、敬語についていい解説本がないのはなぜか?本書を読んでようやくその理由がわかった。指針がなかったのだ。
本書の付章「仕組みを覚えれば敬語は簡単!」に「『敬語の指針』までの歴史」という項目がある。まず戦後の敬語だが、昭和27年(1952年)に国語審議会から「これからの敬語」と題する基準が示された。この基準が半世紀にわたって敬語のあり方を示すものだった。しかし数十年もすれば言葉は変わる。
「お名前様をいただいてもよろしかったでしょうか」「千円からお預かりになれます」などの珍妙、奇妙な表現が使われ始めた。
尊敬語と謙譲語の使い分けがあいまいになり、「社長が申されました」「温かいうちにいただいてください」など基礎的な理解が不足するようになった。そこで平成12年(2000年)に文化庁が「現代社会における敬意表現」という答申を出したが、敬語の乱れや誤用を修正するものではなく、数年で消えてしまった。
そこで文化庁は平成19年(07年)に「敬語の指針」を答申した。「敬語の指針」は細かい内容に踏み込み、謙譲語を性質によって「謙譲語Iと謙譲語II」に分類し、丁寧語も「丁寧語と美化語」に分類した。