「価格転嫁」ができない日本企業の語らざる本音 「モノが売れなくなってしまう」という恐怖…

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世界的に物価が上昇していく中で、日本では企業がコスト増をのみ込んでいると書いたが、これだけをみれば日本企業が良心的で非常に優秀だと思うかもしれない。しかし、実態は価格転嫁したくてもできない、というのが企業の本音だろう。

企業がコスト増を販売価格に転嫁できているかどうかを示す指標の1つに「マークアップ率」というものがある。聞きなれない言葉かもしれないが、この指標は販売価格とコストの比率と定義されており、独立行政法人経済産業研究所が発表している産業別の平均マークアップ率は以下の式で算出している。

 産業別平均マークアップ率=(要素費用表示のGDP+中間投入)/(資本コスト+労働コスト+中間投入)-1 

この値がゼロより大きければ企業が価格支配力を持っており、数字が大きいほど価格転嫁が容易な産業といえる。

最新のデータは2018年のものとなるが、マークアップ率がマイナスとなった産業は100業種のうち32業種に上る。日本企業はコスト増となっても価格転嫁できない産業が全産業の3割を超えているという実情が浮き彫りになっているわけだ。

ここで確認した企業物価指数と消費者物価指数の乖離こそが、「スタグフレーション」の本質に迫るポイントといえる。

デフレスパイラルの恐ろしさ

諸外国では企業がエネルギー価格を中心とした原材料価格の高騰によるコスト増を販売価格に転嫁できている一方、日本企業が販売価格に転嫁できない理由はなぜか。それはこの失われた20年とも30年ともいわれる日本経済が生み出した「デフレスパイラル」という恐ろしい現象によるものだと考える。

プロレス技の名前のようにも聞こえるが、日本がこのデフレスパイラルの恐ろしさを実証してしまったことで、欧米各国や中国は「日本化(ジャパナイゼーション)」を避けることに躍起になっている。

それでは、デフレスパイラルはどのようにして起こり、どのような悲劇を招くのかをみていこう。

きっかけはさまざまだ。バブル崩壊やリーマン・ショックのように金融市場、不動産市場で資産価格が暴落することかもしれないし、天変地異や戦争などの地政学リスクの高まりによる資源価格の高騰もきっかけになりうる。

国内経済には政府、企業、家計という3つの経済主体があるが、何かをきっかけに景気が減速すれば、まずは政府が経済対策を打ち景気を浮揚させるようにする。その際に考えられるのが金融政策と財政政策だ。しかし、政府が適切な対策を打てなかった場合、デフレスパイラルに突入するリスクは急激に高まる。

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