実は子どもの死因「不慮の死」長年上位の衝撃実態 原因がわかれば予防できるのに情報取得を阻む壁

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CDRは、子どもの死を検証する制度だ。単なる検証が目的ではなく、和名で「予防のための」とあえて挿入されているとおり、子どもの死を少しでも防ぐことを目的にしている。

子どもの死亡に関しては、医療機関や保健所、学校・保育園・幼稚園、福祉、救急、警察、児童相談所など多様な機関が関係する。ただし、各機関はそれぞれ個別対応だ。広範囲にわたる関係機関の間で情報を共有し、予防策を検討する仕組みはこれまでなかった。

NPO法人「Safe Kids Japan」によると、子どもの死の予防は長年の課題だった。日本では1歳以上の子どもの死亡原因の上位は「不慮の事故」。つまり、予防できる事故だ。しかも、状況は1960年代から変わっていない。

そうしたなか、この分野での先進国・アメリカから約40年遅れで、日本でもCDRを本格導入する動きが始まった。子どもの死に関わる多機関が集まり、情報を共有し、死に至った経緯を明らかにしたうえで、予防策を考える。それがCDR事業の基本形だ。「多機関連携」が制度の肝で、縦割りによる情報共有の壁を打ち砕く手だてとして期待されている。

ところが、2020年度から始まった国のモデル事業(厚生労働省主管)では、当初のもくろみどおりに事が進んでいない。

調査報道グループ・フロントラインプレス取材班の取材では、①警察から捜査情報が得にくい、②個人情報保護がネックになって必要な情報が集まらない、という2つの課題が浮き彫りになった。これらが足かせとなって「CDRは理想形では導入できない。できたとしても10年はかかるだろう」「導入は結局できないのではないか」という声もある。

自見議員はそうした現状も知っている。それでも「こども家庭庁ができたらうまくいく」と力を込める。なぜか。それは、こども家庭庁が最後の一押しの役目を果たせるからだ、という。

やりたくても法律がなければ動けない

子どもの死亡検証は、これまで手つかずの分野だった。自分の子が亡くなっても、死亡した経緯がわからない。そんなケースが後を絶たなかった。

国会議員になりたてのころ、その事実を知った自見議員は、子どもの死亡検証を行政が責任をもって遂行できるように、法律を作らなければと判断。その後、成育基本法(2018年12月成立)、死因究明等推進基本法(2019年6月成立)が次々に施行され、子どもの死亡検証は一応、「行政がやるべきこと」に含まれるようになった。

ただ、これらの仕組みは文部科学省や厚生労働省が中心となって所管する、依然とした縦割りだ。そこからこぼれ落ち、検証されないままのケースも出る。あるいは、他省庁や他機関の協力が得られず、十分な検証ができないケースもある。

省庁横断的なこども家庭庁は、そうした隙間を埋め、CDRを実りある形で導入できるはずだ。「こども家庭庁ができたらうまくいく」と自見議員が力説する背景には、こうした事情がある。

自見英子・参議院議員。取材はオンライン(写真:益田美樹)
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