日本人の間で進む「清潔こそが正義」社会のリアル 私たちはこの「漂白化」の前にはなすすべもない

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話が変わるようだが、かつて某番組の企画で靴磨き職人と話したことがある。高度成長期に靴磨きが必要とされたのは、都市部であっても舗装が不十分で砂や泥にまみれる機会があったからだという。だから汚れているのは標準で、ピカピカの靴だったら、そのぶん目立った。現在は靴がきれいなのは当然、それ以上の身のこなしや清潔さが求められている。そして、たやすくできることを、やらない人は排除されるということか。

③ コロナ禍

そして、時代の流れに決定的だったのは、コロナ禍だったように思う。コロナ禍では、人と人との接触をできるだけ避けた。これまでであれば、子どもたちの接触ならば、多少の菌やウイルスの交換もあるだろうと、親たちはわかっていたはずだが、それも回避するようになった。

さらに、誰かが触ったものを消毒してからしか触れない。通常の人であってもそうなのだから、他者が不潔と感じる人を避けようとするのは当然だったかもしれない。

また、テレワークだからと安心はできない。そもそも、みなさんは同僚の顔をまじまじと見たことがあっただろうか。ZoomやTeamsでは同僚の顔を見続ける。さらに重要なのは、ZoomやTeamsで誰もが、自らの顔を見続けていたことだろう。おそらく、テレビ会議で他の誰よりも見ていたのは、自分の顔だ。朝の支度時も、それほど自分の顔を見る時間はない。しかしテレビ会議は1、2時間ほど自分の顔の現実を突きつけられる。そうすると、必然的に、きれいに、清潔に、という志向が高まってくる。

漂白化する社会に私たちは

ここまで漂白化する社会について書いてきた。さて私はこの社会を否定的に見ているかというと、そうではない。馬鹿らしいと思う反面で、むしろ社会に従順すべきと考えている。嘆くのもいいが、この潮流をむしろ利用できないだろうか。

ところで下の結論は凡庸なものになる。

●コンテンツを作成する場合には、汚さ、不潔を避けることになる。それよりも、端正で清潔なコンテンツを志向すること。汚さ、不潔にも表現の面白さはある。ただし、むしろ汚さ、不潔を使わずに面白さを追求するべきではないだろうか
●社員の清潔さを保つこと。髪型、フェイスケア、そして身だしなみ。さほどお金はかからない。汚れ、シワ、を最小限にすることはすぐにできる
●何よりも、社会が清潔化する漂白を求めている。これは商品化の1つのヒントになるだろう。これは化粧品業界だけではない。企業は、これまで以上に、やや汚れのある職場に求職者が少なくなると意識するべきだ

漂白化する社会は、どこか建前だけで表面だけという感じをもつ人も多いだろう。そして究極的にはそうなのかもしれない。しかし、表面的ではなく、それ以上の中身をもつ企業は、それ以降に勝負すればいい。つまり求職者や顧客を集めた後で、その実力を知らしめたり発揮したりすればいい。

私たちはこの漂白化の前には、なすすべもないのだから。

坂口 孝則 調達・購買業務コンサルタント、講演家

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さかぐち たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。著作26冊。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。日本テレビ「スッキリ!!」等コメンテーター。

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