不確実性は、政治的、経済的、為替レート、または技術的影響を含む多くの要因から生じる可能性があり、特に外国政府がその債券またはその他の財政的コミットメントをデフォルトし、移転リスクを増大化させる可能性を意味している。グローバル化が進んだ自由主義の国では政府の影響を最小限に抑える規制緩和が進むことで、より自由な経済活動が保障される環境が整備されている。
ところが、昨今の企業の海外投資は、そういった環境にない新興国、途上国、あるいは中国、ロシア、インドのように、大国だがリスクが高い国への進出が主流になっており、政治と経済が一体化し、政治的介入が頻繁に行われることでビジネスが左右される国への投資が急増している。そのためカントリーリスクは必要不可欠な要素となっている。
筆者は南欧および北アフリカ地域の治安分析官を30年以上務めた経験から、カントリーリスク分析の最前線に身を置いてきた。結果、感じることは戦後の日本は安全保障面でアメリカに保護され、海外進出に伴うリスクマネジメントの意識が高くないことを痛感している。自慢話ではないが、2015年にパリで発生した2回の大規模なテロを半年前に予想し、警告のレポートを書いたこともある。
リスクマネジメントは過去を分析するだけでなく、そこから見えてくる未来を予測できるかどうかが最重要とされる。あまりいいこととはいえないが、予想が的中すれば、リスク分析は高く評価される。今では多くのシンクタンクも経済分析にリスク評価は当然とされ、世界のビジネススクールもカントリーリスクは必須として教えている。
リスクマネジメントは利益につながらない?
そもそもリスクマネジメントのルーツは保険にあり、大航海時代のイギリスが海外で買い占めた物資を海上輸送する際に、嵐と海賊リスクへの対応で生まれたとされる。時は18世紀、19世紀だった。世界中を繋ぐ海上輸送には不確実な要素が非常に多く、さらに植民地で起きる独立運動や暴動、文化摩擦など大航海時代、帝国主義時代はリスクに満ちていた。
20世紀の2つの大きな大戦も不確実性を高めた。だから、欧米諸国はカントリーリスクについての知識も対応力も進んでおり、判断も早い。ひるがえって日本をみれば、第2次世界大戦でアメリカを交渉のテーブルに引き出すために絶対にやってはいけないナチスドイツとの同盟に踏み切ったわけだが、ドイツのカントリーリスクの高さを認識できていなかったことは痛い経験だ。
今、ウクライナがロシアの猛攻に持ちこたえているのは、情報戦での効果が大きいといわれている。20世紀のキリングフィールドといわれ、第2次大戦の独ソ戦で史上最多の約3000万人が死亡したとされる戦場だったウクライナは、生き抜いていくための術に長けている。彼らの周辺国に対するカントリーリスクの認識は非常に高い。無論、意識が高くても戦争回避はできていないのも事実だ。
不確実さが増す世界において、カントリーリスクの認識を高め、被害を最小化する努力は絶対に必要だ。ところが企業にとってリスクマネジメントへのコストは、利益につながらないと考えられることが多く、コンプライアンス同様、稼ぎ頭となる有能な人材を配置することは少ない。コストも最小限に抑えたいところだ。
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