イギリスBBCは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のリスク災害軽減研究所でビジネスの継続性と組織のレジリエンスを講じる世界的に知られたリスクマネジメントの専門家、ジャンルカ・ペスカローリ博士の指導を受けようと企業が殺到していると報じている。
特に新型コロナウイルスのパンデミック以降は誰もがリスクマネジメントに関心を持つようになり、ペスカローリ氏の意見は重視されている。今回、具体的にはウクライナ危機で高まる世界危機を受け、企業や組織が危機の影響に対して最善の計画と対処する方法を学ぶためだ。ペスカローリ氏いわく、多くの企業や組織が「危機に際してプランBを準備していない」と指摘している。
さらに「パンデミック、ウクライナ、気候変動のいずれであるかにかかわらず、危機に対して重視されるプロセスとサービスについて、非常に明確なアイデアを持っている必要がある」「準備が整っているほど、適切な対応と行動がとれる」と言っている。つまり、日本でいう「備えあれば憂いなし」ということだ。
具体例として「すべてのトップマネージャーは、今も自宅に固定電話を持っているかは考慮すべきことだ。もし固定電話がなく、次の危機が訪れたときに、携帯電話のネットワークが崩壊した場合、彼らは通信手段を持たないことになる」とペスカローリ氏は警告する。
BBCは「昨年のあるレポートによると、『リスクマネジメントに特化した業界は2019年に74億ドル規模の価値があったのが、2027年までに289億ドルに達すると予測されており、その数字は、2月にウクライナで危機が発生する前に計算されたものだ』」と指摘している。
リスク対応マニュアルを作成していない日本企業も
筆者がこの業界に関わるようになった30年前、先を見据えた欧米の大企業は、取締役会レベルでリスクマネジャーを任命し始めていた。その人物には危機発生時を乗り切るための権限と責任が与えられている。単なる参考意見を聞くレベルではなく、リスクマネジャーは日ごろから、実際の危機を想定し、シミュレーションを繰り返し、対応プランを練り上げている。
一方、海外進出した日本企業の中には、リスク対応マニュアルを作成していない企業もある。リスクマネジメントではリスクを洗い出し、その程度をレベル分けし、対応策の優先順位を決めなければならない。それを決めるのはリスク発生に最も近いリスクオーナーと呼ばれる人物に権限と責任が委ねられるが、日本は集団管理で1人の人間に権限も責任も集中していない場合が多い。また、遠く離れた現場を知らない本社に権限が集中している場合も少なくない。
この10年、リスクプランが大幅に増加した業界は金融業界で、特に2008年のリーマンショックの金融危機は業界の意識を変えさせた。リスク対応に失敗すれば会社が倒産に追い込まれるだけでなく、国がデフォルトに陥る可能性もあるからだ。リーマンショックおよびギリシャの財政危機以降、欧州の金融業界はストレステストを繰り返した。
ペスカローリ氏は「将来のリスクにどう対処するかを考えることは、政府や企業に限定されるべきではなく、個人や家庭も考慮されるべきだ」と指摘している。
筆者の経験では、まずはリスクに対する免疫力をどうつけるかが最も重要で、次にリスクを洗い出す作業における豊かな想像力とリスクを感じる感性を磨くことが必要だ。そのうえで継続、変異するリスクを細心の注意を払って継続的に監視し、説得力を持つコンテクストに裏打ちされた対応プランを練っておくことが求められる。
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