ロシア軍侵攻「日本企業」が早急に再確認すべき事 危機に際し「プランB」を準備できているか

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しかし、今回のロシアのようなカントリーリスクが起きた場合、その損出は計りしれない。それも生産拠点への巨額投資分が無駄になるだけでなく、国にとりあげられてしまうとなれば、事態は深刻だ。今の流れではロシアが完全に方向転換しない限りは、何年も信頼回復に時間を要し、外資系企業はすべてを諦めざるをえない状況に陥る可能性が高く、グローバルビジネスは委縮する。

最大のカントリーリスクは国を超えたカタストロフィ(突然の大変動)をもたらす世界戦争、それも究極は核戦争。東西冷戦期は自殺行為につながる最終兵器である核兵器は最強の抑止力としながらも、使用する選択肢はタブーだった。背景に20世紀の2つの大戦の記憶があったことも想像できる。皮肉にも核武装によるバランスオブパワーで冷戦終結まで世界規模の戦争は回避できた。

その後もボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、スーダンやシリア内戦、アルジェリアやイラク戦争などの民族紛争、地域紛争は繰り返されたが、核保有国が核使用をちらつかせるほどの戦争は起きなかった。しかし、今回のウクライナ危機では、世界最大規模の核兵器を保有するロシアのプーチン大統領が、核使用に言及している。

プーチンが核攻撃を仕掛ける可能性はゼロではない

人類が核兵器を保有するようになって76年以上が経つ。広島と長崎に原子爆弾が投下されたのはアメリカでの最初の核実験から21日後だった。それ以降、戦争に使用されたことはなく、核保有国は核兵器を最強の戦略兵器と位置付け、抑止力としてだけでなく、相手を脅迫する材料にも用いられてきた。同時に国威高揚、究極的な軍事的自立を目指す理由とされ、宇宙開発同様、国民の自尊心称揚手段として、イランや北朝鮮が核武装論にこだわっている。

しかし、核兵器使用はあまりにも甚大な被害が出るため、最近では原爆の小型化も議論され、「使える兵器」にしようという動きもある。専門家の中にはロシアは密かに原爆の小型化を行っており、プーチンはその使用を念頭に置いているという指摘もある。ウクライナ軍の想定以上の強い抵抗は、アメリカが広島と長崎に原爆投下を行う前の状況に似ている。

だとすれば、大都市の1つや2つが消えてしまう規模の核攻撃を行うことで日本が戦意を失ったことに見習い、プーチンが核攻撃を仕掛ける可能性はゼロとはいえない。その後の国際批判も織り込み済みかもしれないが、アメリカと違い、ロシアが失う国際的信用を取り戻すには、かなりの長い時間がかかるかもしれない。同じ核保有国で覇権主義の大国、中国は台湾を念頭に注意深く事態をうかがっていることは間違いない。

リスクマネジメントには「最悪の事態を想定する」ことが含まれるわけだが、今回のウクライナ危機の最悪の事態が核兵器の使用であることは確かだ。今、アメリカ政府はそのリスク分析に追われているはずだし、その場合の対応も議論されているはずだ。

最近はリスクマネジメントという言葉が使われることが多い。通常はリスクの意味はいまだ起きていない危機を指し、起きてしまった危機への対応とは分けられていた。ところがリスクそのものはコロナウイルスのように変異しながら継続するため、両方の管理が必須という認識が広がり、その全体をリスクマネジメントと呼ぶ場合が増えた。

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