
「株価の乱高下が止まらない」と漏らすのは、プライム企業のIR(投資家向け広報)担当者だ。競合企業が最近、親会社によって完全子会社化されたからだ。同社の親会社は上場企業。利益相反や少数株主保護を問題視する東京証券取引所の方針によって、親子上場の解消は株式市場で注目の的だ。「次はうちが対象になるのではという思惑が投資家の間で広がっているようだ」(同)。期待先行でこの企業の株価は振り回されている。
「このままではTOPIX(東証株価指数)から外されてしまうかもしれない」。別のプライム企業の担当者も危機感を隠さない。流通株式時価総額は上場維持基準の100億円は超えているものの、停滞しているからだ。この担当者は「株価対策について経営陣が真剣に議論し始めた」と明かす。
日本でのコーポレートガバナンス(CG)改革の嚆矢(こうし)となった「伊藤レポート」が世に出たのが2014年。ROE(自己資本利益率)8%がグローバルスタンダードだと打ち出し、市場関係者に衝撃を与えた。それから10年が経過し、CGコードが策定されるなど、日本の資本市場は大きく変化した。
東証がアクティビストに
ブランズウィック・グループの江良明嗣パートナーは日本のCG改革を見つめてきた一人。「市場関係者の間では長い間、企業業績の停滞や株式市場の地盤沈下への危機感がくすぶり続けていた。市場や制度の改革はそうした不満を解消するとともに、アベノミクスのドライバーにもなった」と話す。
その間、日経平均株価はおおむね順調に上昇。22年に行われた東証の市場区分見直しは、猶予措置が広すぎて「骨抜き」といわれたものの、23年には東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したことで風向きが変わる。
今や「東証こそが最大のアクティビスト」といわれるほどで、政府と一体となった一連の改革は上場企業に強い緊張感を与えている。
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