キヤノン、松下、日亜化学…はびこる”偽装請負”の実態
請負とは名ばかり、実態は派遣先の監督・指示の下で働く違法派遣。それが偽装請負だ。社会問題化してからは法違反こそ鳴りを潜めたが、労働者の「苦闘」は続く。
(週刊東洋経済2月16日号より)
「まさか県が間に入ったのに、合意がひっくり返されるようなことになるとは思わなかった。完全に裏切られた」
発光ダイオード大手の日亜化学工業(徳島県)で、製造ラインの請負労働者として働いてきた島本誠さん(34)は語気を強める。2007年12月、元請負労働者7人が加入する全日本金属情報機器労働組合(JMIU)は、彼らの直接雇用が認められなかったのは労使合意に反する不当労働行為に当たるとして、徳島県労働委員会に救済を申し立てた。
06年10月、島本さんら請負労働者19人は、日亜化学が労働者派遣法違反の偽装請負を行っていると徳島労働局に申告。これを受けて翌月、同社は県の仲介の下、3年以上働く請負労働者について採用選考を経て直接雇用するとしたため、島本さんらは申告を取り下げた。
ところがその後、申告した請負労働者たちの業務は次々と打ち切られ、肝心の採用選考でも筆記試験こそ受かっても面接では一人残らず落とされた。当時、全国紙の一面トップに「偽装請負の1600人雇用へ」「勤続3年で契約社員に、正社員の道も」と大々的に報じられ、飯泉嘉門徳島県知事も「今後のリーディングケースとなる」と評価していた。どこでボタンの掛け違いが生じたのか。
救済申立書によると申告取り下げに至った県、日亜化学、JMIUの三者協議の場で、会社が「筆記試験が0点であっても、3年働いてきた経験を最も重視する」と回答するなど、よほどのことがないかぎり不採用としない趣旨の労使合意が締結されたという。JMIU徳島地方本部の森口英昭・執行委員長は「納得いかない内容のまま容易に申告取り下げなどするわけがない。文書化しなかったのは県幹部が『私を信じてください』と間に入ったからだ」と憤る。