キヤノン、松下、日亜化学…はびこる”偽装請負”の実態
「期間社員になって変わったのは制服だけ。不安定な立場は何も変わらない」。キヤノン宇都宮光学機器事業所で期間工として働く大野秀之さん(33)は悔しさをにじませる。06年10月、大野さんらは同社の偽装請負を栃木労働局に申告。年末には請負労働者25人で労組支部を立ち上げた。キヤノンは07年3月に派遣・請負労働者3500人を直接雇用すると発表したが、雇用主ではないとして彼らの団体交渉要求は拒み続けた。同年8月、大野さんらが不当労働行為の救済申し立てを行うと、同社は組合員が所属する部署のすべての請負労働者に直接雇用を申し入れた。ただし、彼らが求め続けてきた正社員ではなく、5カ月契約で最長2年11カ月の期間社員としてだ。「不安や不満はあるが、今の仕事を続けるには受け入れざるをえなかった」(大野さん)。その翌月、栃木労働局は告発どおり偽装請負があったと認定し、キヤノンに是正指導を行ったが、正社員化は指導には含まれなかった。
偽装請負は認定されたが、職場復帰は認められず
請負労働者、期間工の不安定な立場を象徴する判決が07年4月、大阪地裁で出された。松下プラズマディスプレイの偽装請負を申告した期間工の吉岡力さん(33)が5カ月での雇い止めは無効だとして争ったが、判決は職場復帰を認めなかった。
労働者派遣法では派遣期間制限を超えた場合、派遣先が直接雇用を申し入れる義務が生じる。判決も吉岡さんが偽装請負状態で働いており期間制限を超えていたことは認めたが、派遣先が申し込み義務を履行しない場合、申し込まれたとみなすことはできないとし、さらに期間工としての採用で違法状態が解消したと認定。会社側にこの期間工の契約を更新する義務はなく、雇用契約関係は問題なく終了したと判示した。
これでは、せっかく偽装請負を告発した請負労働者が、まるで報われない結果になりかねない。中央大学の毛塚勝利教授(労働法)は「これは事業法である派遣法の限界。派遣法違反となると、かえって当事者の私法上の救済を困難にするというパラドックスが生じる」と問題視する。
06年に一斉に切り替えられた派遣の期間制限は09年に訪れる。そこではまた多くの労働者の失職が懸念される。「正社員登用」が偽装請負に伴い企業に課された義務としてではなく、あくまで企業の広範な採用権に基づく「恩恵」なのだとしたら、彼らの不安な日々に終わりはない。
(週刊東洋経済編集部)
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