バイデン政権「プーチンフレーション」説は不人気 「インフレ」をめぐる責任論争では共和党が攻勢

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ロシア軍のウクライナ侵攻以降、バイデン大統領に対する支持率はわずかながら上昇したという世論調査もある。だが、リアル・クリア・ポリティックスの最新世論調査平均値ではいまだに支持率が40%台前半で推移し、不支持が支持を上回る状態が半年以上も続いている。

したがって、民主党がプーチン大統領をインフレの元凶だとする「プーチンフレーション」戦略の効果は不透明だ。前述のABCニュース・イプソス世論調査では、国民の70%がバイデン大統領のインフレ対策を支持していない。「プーチンフレーション」という民主党の訴えは国民に響いていないようだ。

そもそもロシアがウクライナに侵攻する前から、バイデン政権下でインフレ問題は深刻化していた。その当初、バイデン政権がインフレ問題を「一過性」と軽視していたことからも、国民の信頼を失ってしまっている。政権のインフレ要因についての説明は、これまで二転三転してきた。国民は、プーチン大統領によるウクライナ侵攻だけがインフレの原因ではないことを見抜いている。

インフレ問題をめぐる情報戦では共和党が優勢

民主党の「プーチンフレーション」戦略は近い将来、ますます限界が見えてくるだろう。ウクライナ紛争は首都キエフが陥落したとしても、ゲリラ戦で泥沼化し長引くことが想定されている。一方、現在のようなウクライナ危機ばかりを24時間報道する状況がいつまでも続くとは思えない。ニュースサイクルが速い今日、キエフ陥落後はいずれ他のニュースに国民の関心がシフトする。

その反面、早期解決が困難なインフレ問題は長く国民生活を圧迫する公算が大きい。その結果、過去にもみられたように、不満の矛先は現政権に向かうこととなるであろう。

3月1日のテキサス州予備選を皮切りに、国内政治は中間選挙に向けた選挙サイクルに入り、民主党と共和党の攻防は本格化の様相を見せ始めた。ウクライナ危機以降、インフレ問題をめぐる情報戦が党派間で激しさを増しているが、当面は共和党優勢の状況が続きそうだ。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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