中央銀行総裁の発言は、なぜ注目されるのか ニュースがバブルを膨らませる

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効果は小さく、長続きしないだろう。しかし私たちが日々浴びるほとんどの領域のマクロ経済情報とは異なり、中央銀行幹部のスピーチや見解は、相対的に予見しやすい影響を及ぼす。そして何兆ドルものカネが渦巻く世界の金融市場では、この予見しやすさが格好の目安となり、投資家はまず間違いないと確信できれば、たとえ1ドル当たりの収益が小さくとも、積極的に大きな賭けに出る。

評価のバブルを膨らませている

中央銀行幹部がメディアの注目を集める理由の一つには、中央銀行が独立性を有し、確かな実績を積んできたこともある。しかし理由はほかにもあって、自分の責任を他者に転嫁したい政治家の思惑、インターネットの時代に合うように自己改革を図りたいメディアのあがきなどが絡んでいる。これらが相まって、中央銀行の見解や決定について、評価のバブルを膨らませている。

これは中央銀行幹部にとって懸念すべきバブルだろうか。答えは明らかにイエスだ。とりわけニュースが膨らませるバブルが問題だ。なぜなら、ニュースによるバブルは、大方は事実に反するにもかかわらず、中央銀行幹部は過剰なほど金融市場を気に掛けるものだ、という見方を強く印象づけるからだ。

ほとんどの中央銀行幹部は、実際には成長、インフレ、金融の安定を特に重視している(順不同)。政治がらみのバブルは、中央銀行の独立性が高まれば不可避的に発生するため、金融政策が政治家の標的になるのを防ぐには、絶え間なき努力が必要だ。予見しやすいために膨らむバブルは、舵取りが難しいが、過ぎたるは及ばざるがごとし。過度に重要視されることこそ、つねに心掛けて積極的に芽を摘むべき種類のバブルだ。

週刊東洋経済2014年11月22日号

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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