昨対23%増「フェラーリ」コロナ禍でも絶好調の訳 ラインナップと顧客ロイヤルティの巧みな戦略

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「このコロナ禍で人生観が変わりました。スポーツカーマニアとして一生に一度はフェラーリを所有したいと思っていました。それはもう少し先かなと思っていたのですが、自分の命なんて、いつどうなるかわからない。元気があるうちに手に入れようと決心したのです」

そんな彼は、念願であった「F355」(もちろん中古車)を少し無理して手に入れたという。

筆者は先だってマラネッロのフェラーリ本社を訪問する機会があった。コロナ禍において、マラネッロが位置する北イタリアは初期に多くの犠牲者を出した地域でもあり、フェラーリ本社も2020年春から昨年後半に至るまで、外部からの取材などを完璧にシャットアウトしていた。

マラネッロのフェラーリ本社工場エントランス(写真:Ferrari)

しかし、久しぶりに訪問してみると、その間にもきたる日に備えて、本社工場内は留まることなく進化していたのだ。開発部門はリモート勤務が積極的に行われているが、製造部門は電動化に対応する生産ファシリティの拡大や前述した新世代エンジンの製造に向けて、リニューアルが進んでいた。

さらにはフェラーリのテストコースであるフィオラノ・サーキット内には、コア顧客のモータースポーツ活動をサポートするプログラム「コルセ・クリエンティ」の新ファシリティまでが完成していた。ここでは顧客が購入したF1マシンを含むサーキット専用モデルが管理され、スタッフはサーキット走行を楽しむ顧客のための総合的なサービスを行う。

上空から撮影したフィオラノ・サーキット(写真:Ferrari)

コロナ禍の沈静化とともに、ロイヤルティの高い重要顧客がサーキットランを楽しむことができるよう、虎視眈々と彼らは準備を重ねていたのである。ご存じのように、フェラーリブランドのベースにあるのは、創始者エンツォ・フェラーリのモータースポーツDNAであるから、彼らにとって市販車の開発・製造と同じ、いやそれ以上にモータースポーツへの取り組みは重要なのだ。

スーパーカーブランドの頂点であり続けるために

フェラーリのマネージメントは、コロナ禍においても留まることなくブランドパワーの最大化への歩みを止めていない。

電動化への対応、環境への配慮、そして近々デビューが想定されているブランド初のSUV「プロサングエ」(フェラーリとしてはSUVとは呼ばないようだが)など、スーパーカーブランドの頂点を維持するために、フェラーリは日々前進していることがよくわかる。

そういえば先日、こんなニュースが飛び込んできた。「2021年はフェラーリの従業員の情熱と献身によって特別な年になりました。皆の力によって達成された成果に応じて、従業員全員に1万2000ユーロ(約150万円)を超える特別なボーナスが支給されることになりました」。

昨年は、これ以外にも複数回の特別ボーナスが同様に支給されているという。フェラーリで働くということもまたステータスであることは間違いないのだ。

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越湖 信一 PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表

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えっこ しんいち / Shinichi Ekko

イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete Guide』『Giorgetto Giugiaro 世紀のカーデザイナー』『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。

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