「情報戦」でウクライナが圧倒的に優勢な理由 イーロン・マスクを味方にするSNSナラティブ

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10時間後、イーロン・マスクは次のように返信した。

「ウクライナでスターリンクのサービスが開始されました。さらに多くのターミナルが控えています」

これらのやり取りは非常に現代的だ。今は組織格よりも「個人格」の訴求力が強い時代となっている。国や会社よりも(国や会社に所属していても)個人の時代であり、そこには上下関係がなくフラットな世界となっているのが特徴だ。個人の発信が先で、メディアはそれを報道している構図である。メディアが個人格の後を追っているというわけだ。対してロシアはまったく異なるアプローチをしている。ちなみに、真偽のほどは不明だが、プーチンはスマホすら持っておらずネットも見ていないともいわれている。

巨大なストーリーではなく個人ナラティブ

ポイントの2つめは、巨大なストーリーよりも個人ナラティブが人々の心に響くということである。

象徴的な出来事に、ロシア兵の捕虜の話がある。

ウクライナはロシア兵の捕虜のためにホットラインを開設した。その名も「come back alive from Ukraine(ウクライナから生きて帰る)」。ウクライナで捕虜となったロシア兵がどのような状況にあるかをロシアにいる家族に知らせるもので、開設早々、問い合わせが殺到しているそうだ。

これまでの戦争でも捕虜の扱いについての発信はあった。国の代表などが出てきて「捕虜は無事で丁寧な待遇をしています」と記者会見で述べるというやり方だ。それに対してウクライナによるホットラインは非常にうまい方法となっている。なぜならロシアで待つ家族は、現場にいる捕虜となった息子の口から直接「大丈夫だったよ」「こんな戦争はすべきではない」と聞くのだから。

3月1日にニュースとして伝えられた国連総会の緊急特別会合でのエピソードが象徴的だろう。ウクライナのキスリツァ国連大使がロシア語で読み上げた、死亡したロシア兵の携帯に残された母親とのメッセージのやり取りだ。「ママ、ウクライナにいるんだよ。本当の戦争が起きている。怖いよ」。

これは、巨大なストーリーではなく、1人の若いロシア兵の個人のナラティブだ。メディアが個人ナラティブを増幅させる時代であり、大義名分による巨大な政府(国)のストーリー、つまりロシア政府が発信したい、「ロシア軍は解放者だ」というストーリーはまったく効果を上げていない。それよりも、捕虜となったロシア兵と母や家族との物語のほうがよほど強いメッセージとなる。

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