「情報戦」でウクライナが圧倒的に優勢な理由 イーロン・マスクを味方にするSNSナラティブ

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3つめのポイントは、戦争当事者以外が参画する余白と、それによって形成される共創の構造だ。ボスニア紛争のときにはなかった事象で、これこそネットやSNSなど現在の環境があってのことだろう。

いわゆる「シチズンジャーナリズム」ともいえるだろう。ロシアによるプロパガンダや、ウクライナによるSNSなどでの情報発信という当事者に加えて、一般の人がどんどん参画してきてナラティブを作るという構造だ。

例えば、今年1月、イーロン・マスクのプライベートジェットを追跡するボット「Elon Musk's Jet」を作った19歳の大学生が話題になった。その彼が今度はプーチンやオリガルヒ(政権と深い関係のあるロシアの新興財閥)のプライベートジェットを追跡するアカウント「@PutinJet」「@Russian Oligarch Jets」を作った。

また、広く報道されているとおり、国際的なハッカー集団「アノニマス」を名乗るグループが、2月25日にロシアに対するサイバー攻撃を行うとTwitter上で発表している。

このように、情報戦に当事者外の人や集団がどんどんと入ってきて、それによって情報の再生産が起こる。非常に現代的な共創構造といえるだろう。

戦争プロパガンダから、ナラティブの戦いへ

現代社会は共感と共創の時代に入っている。プロパガンダと呼ばれるものは通用しなくなってきているし、プロパガンダはプロパガンダであると見抜かれてしまう。

プロパガンダは日本語だと世論操作、大衆扇動と呼ばれる。歴史的にプロパガンダは戦争において多用されてきた。ナチスの宣伝相ゲッベルスによるものが有名だが、ゲッべルスの宣伝省は最盛期で1万5000人を有する巨大組織で、「宣伝省の中に政府がある」と揶揄されたほどだ。北朝鮮政府内にある「宣伝扇動部」しかり、もちろんロシア政府の中にも同様の部門がある。

これは自分たちに都合のいい、(フェイクも含む)お話を作り上げて一方的に押し付け、自国民に信じさせるというやり方だ。こうしたやり方はかつての日本にもあったし、それが効いた時代もあった。しかし、一方的な都合のいいストーリーの押し付けというプロパガンダ・アプローチはもう通用しないだろう。

これからはナラティブ・アプローチが共感と共創を生むのは明らかだ。それが、この戦争の情報戦においてウクライナが有利となった理由でもある。ボスニア紛争の終結に情報戦の貢献があったように、ウクライナとそれを支持する人々の動きが功を奏して、1日も早くこの戦争が終結に至ることを願ってやまない。

本田 哲也 本田事務所代表取締役、PRストラテジスト

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ほんだ てつや / Tetsuya Honda

「世界でもっとも影響力のあるPR プロフェッショナル 300 人」に 『PRWEEK』 誌により選出されている。「PRWeek Awards 2015」にて「PR Professional of the Year」受賞。1999年に世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年ブルーカレント・ジャパン代表。2019年より現職。著書に『戦略PR 世論で売る。』(アスキー新書)、『その1人が30万人を動かす!』(東洋経済新報社)など。国連機関のアドバイザーなどを歴任。世界最大の広告祭カンヌライオンズで公式スピーカーや審査員を務めている。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)理事。

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