「情報戦」でウクライナが圧倒的に優勢な理由 イーロン・マスクを味方にするSNSナラティブ

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一方のセルビアはPRの重要性に気づくのに遅れた。そのため、次々と悪役のレッテルを貼られ、国際世論を味方につけることができず、結果的に敗北した。

さて、ルーダー・フィン社とハーフの仕事は見事だったが、SNSのない1990年代のことで、戦術的な面においては、オーソドックスなことしかしていない。プレスリリースやニュースレター「ボスニア通信」はファクスで送信、あとは記者会見やジャーナリストとの面会などだ。現在から見ると、前世代的な手法である。

フラット化した世界とSNS

ひるがえって、2020年代のウクライナ情勢における情報戦を見ると、そこには非常に現代的な要素がある。実際に起こっていることを3つのポイントにまとめてみよう。

1つめは、フラット化した世界とSNS。ボスニア紛争ではトレーニングされたシライジッチ外相が、セットされた記者会見で話すことで情報発信をした。一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、等身大で親近感を持たれる振る舞い──自身をMan on the Street(一般の人)と見せる発信がポイントとなっている。

象徴的なのが、「逃げた」と噂を流されたゼレンスキー大統領が政府の高官4人と一緒に首都キエフの中心部から自分のスマホで「私たちはまだここ(キエフ)にいる。国を守る」と話す自撮り動画を国民に向けて発信したことだ。国のために戦うウクライナ市民と上下関係を感じさせないフラットなスタンスが見てとれる。

また、ロシアの攻撃が始まった直後の2月24日に開かれたEU首脳の緊急会議で、リモート会議でつながったゼレンスキー大統領がEU首脳を前に行った切実な訴え──「われわれは、欧州の理想のために死んでいく」「生きて会えるのはこれが最後かもしれない」は多くのメディアで報道され、経済措置に及び腰だったEUの空気を変えたといわれる。

ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相兼デジタル変革大臣のSNSの使い方もうまい。Twitterで直接スペースX社のイーロン・マスクに通信衛星回線を要請したのだ。内容はこうだ。

「@イーロン・マスク、あなたが火星を植民地化しようとしている間に、ロシアはウクライナを占領しようとしています!

あなたのロケットが宇宙着陸に成功している間に、ロシアのロケットがウクライナの市民を攻撃しているのです。

ロシア人に立ち向かうことができるように、ウクライナにスターリンク局を提供してください。お願いします」

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