大阪カジノ・事業会社撤退条項にはらむ大リスク 国も大阪も取らぬ狸の皮算用にならないか

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基本協定では事業者側の都合で撤退した場合、6億5000万円の違約金が定められている。違約金を設定しなかった「りんくうタウン」に比べればマシとはいえ、土壌改良だけで790億円をつぎ込むことを考えれば、スズメの涙である。

府市は、契約解除となった際は「事業継承又は再公募等によりIR事業の継続が図られるよう努力」するとしている。しかし今回、公募に応じたのはMGM・オリックス連合だけだった。競争相手がないから土壌改良費についても業者側の言い分をのまざるを得なかったのではないかとの推測も成り立つ。

筆者は「大阪IR誘致、政府の『ソロバン勘定』」は正しいか」で、IR誘致の収支について疑問を呈した。ソロバンは3つある。1つは業者の、もう1つは地域(自治体)の、そして国全体のソロバンだ。

国も大阪も怪しくなるソロバン勘定

業者や立地自治体が儲かったとしても、原資は客が賭博ですった金だ。カジノの入場者の7割は日本人とされ、儲けの多くは海外の業者に流れる。国民財産の海外流出だ。さらに政府はカジノ管理委員会なる組織を新たに立ち上げ、開業もしていないのに2021年度だけで10億円を超す予算を計上している。

国全体としてみれば、とても帳尻があわないのではないかと指摘したが、大阪市が土壌改良に巨費をつぎ込むならば、地域のソロバン勘定も怪しくなる。そのうえ、儲からないと業者がソロバンをはじけば、法律や制度ができてもIRが存在しないという珍妙な事態もあり得る。いったんできたとしても撤退すれば、各地に夢をばらまき、一部で借金を残したリゾート法の二の舞だ。

3つのソロバンすべての帳尻があわそうとするならば、外国人客に莫大な賭け金をつぎ込んでもらわねばならない。外国人といっても過半は中国人を想定しているだろう。その中国政府が今後、賭博への締め付けをさらに強めることはあっても緩めるとは考えづらい。海外やオンラインでギャンブルをする中国人への締め付けも強くなりそうだ。

いずれにしろ中国共産党の出方次第で成否が左右される国策事業は、岸田文雄政権肝いりの「経済安保」の観点からも見直しが必要ではないだろうか。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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