大阪カジノ・事業会社撤退条項にはらむ大リスク 国も大阪も取らぬ狸の皮算用にならないか

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これを読んで、2つの残像が私の脳裏に浮かんだ。1つは、かつて訪れたベトナム南部バリア・ブンタウ省の海岸の風景だ。

商都ホーチミンから車で2時間余り走ると、南シナ海に面した旧漁村に巨大なホテルとゴルフコースが忽然と現れる。同国初の本格的カジノホテル「グランド・ホーチャム・ストリップ」(現インターコンチネンタル・グランド・ホーチャム)。大阪IRの主軸であるMGMが約10年前、カナダの企業と組んでオープンさせる予定だったが、MGMは2013年の開業前にマネジメント契約を解除した。リゾートはそれでもなんとか開業にこぎつけたものの、コロナ禍もあり客足はさほど伸びていないという。

MGMが解除したのは、ベトナム政府が国民のカジノ入場を認めないというルールを変えなかったからだと伝えられている。外国人客だけでは十分な収益が見込めないと判断し、あっさりと手を引いた。

【2022年3月14日12時00分 追記】記事初出時、MGMはベトナムのカジノホテルを投資したとしていましたが、投資ではなくマネジメント契約であったため、上記のように修正しました。

よみがえる大阪・りんくうタウンの悪夢

もう1つ、大阪IRの完成予想図を見てよみがえるのは、関西国際空港対岸の埋め立て地「りんくうタウン」のトラウマだ。

空港開港前の1988年に大阪府が商業用地の分譲希望を募ったところ、日本中の大手企業がこぞって超高層ビルの建設計画を打ち上げ、模型や予想図を発表した。競争率は6倍を超え、新聞社で大阪府庁担当記者だった私は、この埋め立て地を「現代の宝島」と書いた。

MGMが撤退したベトナムのバリア・ブンタウ省のカジノホテル(写真・筆者撮影、2013年)

しかし結末は無残なものだった。大阪府が各企業と契約を交わす前にバブルが崩壊。日参していた企業の担当者は府庁に寄りつかなくなり、ほとんどの企業が撤退した。玄関口に立つりんくうゲートタワービルは、日本で3番目の高さを誇るもののバランスが悪い。ツインタワーでデザインされたのに、テナントが集まらず1棟しか建設されなかったためだ。建設した府の第3セクターは破綻した。

その後、造成地の土地代を大幅に値下げし、定期借地方式を取り入れるなどして30年かけて漸く完売した。しかし収支は1000億円を超える赤字となる見込みだ。

大規模な開発案件に名乗りを上げても、採算が合わないと判断すれば企業は撤退する。自治体や国がこれにからむと、場合によっては地域住民や国民の負担となる。大阪IRはどうか。

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