偏見だらけの「エイズ」劇的に進化した治療の実際 1日1錠の薬の服用で発症せずに暮らせることも

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病原体が何かわからず、たちまちにエイズを発症し、死亡する病気として恐れられた当初とは違い、現在は、HIVへの感染がわかった段階で治療を開始すれば、一般的な平均寿命をまっとうできる可能性がでてきた。

HIV感染からエイズ発症まで数年から十数年。この潜伏期間中に検査を行い、陽性かどうかを知ることが重要なのだ。

ここ数年で劇的に変わったのは、治療薬だ。

「HIV陽性者でも、今は1日1錠の服用でウイルスの増加を抑えられ、エイズを発症することなく普通の暮らしを送れるようになっています」

そう語るのは、日本エイズ学会の理事長で、熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター(熊本市)センター長の松下修三医師だ。40年近くエイズ研究を行う松下医師は、HIV治療の歴史を次のように語る。

「薬が開発されたのは80年代後半。90年代には、無症候期に治療薬を開始すれば、エイズ発症を予防できるようになりました。しかし、当時は服薬に大変なハードルがあった。20個近くの大きなカプセルを毎日服用しなくてはならず、薬の種類ごとに飲む時間も、飲み方も異なったんです」(松下医師)

正しい服薬が難しいうえに、服用を怠るとウイルス量がリバウンドし、エイズ発症のリスクが上がる。このようにHIVの治療は、患者には大きなプレッシャーを与えていた。しかし、2010年代に入ると、その状況も改善されていく。

「複数の薬剤を1つのカプセルにまとめたSTR(Single Tablet Regimen)という薬が登場したんです。これでようやく薬物治療のハードルが下がり、HIV患者のQOL(生活の質)も向上しました」(同)

ウイルス量をコントールできれば母子感染も起こらない

現在では、適切な治療でウイルス量をコントロールできていれば、性行為(ただしコンドームは使用する)は問題なく、母子感染も起こらない。

「治療を続けて、血中のウイルス量が200copies/mL未満の状態を半年以上維持することを『検出限界値未満(Undetectable)』といいます。この状態にあれば、HIV患者さんが性行為や妊娠・出産をしても、性交渉の相手や子どもに感染しません(Untransmittable) 。この2つの英単語の頭文字をとって、最近は〝U=U〟と呼んでいます」(松下医師)

出産に関していえば、これまでは母子感染を考慮した対策が取られていたが、その様相も変わってきた。実際、欧米の治療ガイドラインでは、HIV陽性の妊婦でもウイルス量が検出限界値未満であれば、HIV陰性の妊婦と同じく普通分娩が推奨されている。日本では産科医の慢性的な不足や、周産期センターの診療体制が不十分であることから、帝王切開が一般的だ。

2021年に開催された日本エイズ学会学術集会・総会では、当事者によるポジティブトークセッションが行われた。そこでは、無事に出産を終えた30代のHIV陽性の女性が子どもと一緒に登壇し、「陽性とわかって人生が一変したけれど、新しい出会いがあって結婚し、出産したこと」を笑顔で報告した。

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