動物園「肉食より草食獣のほうが事故起きる」なぜ 旭山動物園元園長の獣医が語るヒヤリ体験談

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シマウマの蹴りをくらったこともあります。シマウマの飼育場所を移動しなくてはいけなくて、まだ小さいシマウマだったので、動物園で働き始めて日の浅い自分が担当することになりました。捕まえなくてはならなかったので、正面からとびかかったのですが、次の瞬間、正面を見ていたはずのシマウマのお尻がなぜか目に入って、その後の記憶がありません。あごの左側を蹴られて宙を飛び、気を失ったのです。 

シマウマの蹴りは肉食獣を撃退することもあるものですから、なかなか強力なもので、実は今でもあごに後遺症が残っていて、骨がズレています。草食動物で、しかもまだ小さいということで、油断していたのですね。若気の至りでした。

その次にシマウマを捕まえるときは、横から首に向かってタックルをしておさえこむようにしました。

ライオンも手を出さないヤマアラシの怖さ

ヤマアラシも危険でした。便秘になって、浣腸をしなくてはならなくなったのですが、問題はたくさんの長い針を持つ身体をどう取り押さえるか。私は金網をメガホン状に、先がすぼまった形に丸めて、そこへ頭から入るようにして固定する方法を考えました。金網に針がひっかかるので、後退して出ていくことができません。

この方法はうまくいって、無事に浣腸を済ませることができました。金網を結んでいた紐を切ると、さっと解放できるので、とてもよいアイデアでした。「ヤマアラシ固定器」として、特許を取ってもよいのではと思ったくらいです。

問題は、次のときでした。一度使った方法を学習してしまって、固定器に入らなくなってしまったんですね。仕方がないので直接身体を壁に押しつけようと、厚さ12㎜、縦横0.9×1.8mくらいのコンクリートパネルを盾にして、迫い詰めていきました。

ヤマアラシは針を全部逆立てて、足をパンパン鳴らして威嚇します。さらに近寄ると、針がガラガラと音を立て始めました。針のある背中を向けてきたと思った次の瞬間、なんといきなり3mくらいの距離を一気に後ろ向きで跳びかかってくるではないですか!ヤマアラシが激突したコンクリートパネルを見ると、針が10本くらい刺さったまま残っていました。盾がなければ全身ハチの巣だったでしょうね。

生息地をともにするライオンも、ヤマアラシには手を出しません。針が突き刺さると、ライオンは自分で針を抜くことができないので、歩くことができず衰弱してしまうのです。背中の針にさえ気を付けていれば、さほど危険ではないと思えるヤマアラシの意外な激しさを見たときでした。

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