動物園「肉食より草食獣のほうが事故起きる」なぜ 旭山動物園元園長の獣医が語るヒヤリ体験談

拡大
縮小

私は海外にも動物を観察しに出かけているので、そういった際に危険な目に遭ったこともあります。

アフリカのコンゴへ、霊長類の研究者と一緒に、ヒガシローランドゴリラを観察に行ったときのことです。ゴリラが少し下に見えるような位置関係で、観察していました。ゴリラは落ち着き払っているように見えました。

ところが、突然唸り声を上げながら、突進してきたのです。「ぶつかる!」と思ったのですが、あと3~4mほどの距離というところでピタリと止まりました。彼らはむやみには、攻撃してこないのですね。ある程度の威嚇になれば充分と考えて、引き際を知っているようでした。私としては、ゴリラにぶつかられたらどのくらいの衝撃なのかと思って、実はほんの少しぶつかって来てほしかった気持ちがありました。

ゴリラはこちらをにらんだ後、ゴゴゴゴと威嚇してからすーっとその場を去っていったのですが、後ろにメスや子どもたちが30頭ほどぞろぞろと続いていきました。ものすごく格好いいシルバーバックのオスでした。シルバーバックは、群れのリーダーの証です。

コンゴで遭遇したシルバーバックのオスゴリラ(筆者撮影)
メスと子どもたち(筆者撮影)

いちばん怖かった抗血清がない毒ヘビとの遭遇

海外でいちばん怖かった体験は、ヘビによるものでした。先ほどと同じ、ヒガシローランドゴリラの観察で、コンゴを訪れた際に起きたことです。

『角川の集める図鑑GET! 危険生物』(KADOKAWA)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

草を食べながら移動するゴリラを追っていた際、ふと地面を見たら、全長1m50㎝ほどと思われる、太さはそれほどない黄緑色のヘビがいました。キレイなヘビだなと思って写真を撮ろうとかがみました。そうしたら現地のガイドが体当たりしてきて、私を突き飛ばすじゃないですか。ガイドはそのまま、草木を薙ぎ払うための山型の刀で、ヘビを切りつけ始めました。

なんてかわいそうなことをするのだと思ったのですが、ガイドは「無事でよかった」と言いました。そのヘビは抗血清がない毒ヘビで、かまれると3時間後には死ぬ、現地で多くの被害者を出しているヘビでした。今思うと、ヒガシグリーンマンバだったかもしれません。海外に探検に行く際はいろいろな危険生物がいますから、本当に気をつけなければなりません。

動物園でも野生でも、肉食でも草食でも、動物たちは私たちの想像を超える力を持っています。観察したり、触れたりするときには、事前に図鑑などを使い、正しい知識と準備をもって、決して油断せず動物たちと触れ合うようにしましょう。

コンゴで遭遇したヘビ(筆者撮影)
小菅 正夫 札幌市環境局参与円山動物園担当、北海道大学客員教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

こすげ まさお / Masao Kosuge

1948年、北海道札幌市出身。1973年、北海道大学獣医学部卒業後、獣医師・飼育係として旭川市旭山動物園に就職。飼育係長、副園長などを歴任し、1995年に園長就任。日本最北の小さな動物園を日本有数の入園者を誇る動物園にまで育て上げた。著書に『生きる意味ってなんだろう?』(角川文庫)『「旭山動物園」革命』(角川oneテーマ21)など。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT