「ロシアを信じるな」ロシア通の日本人が断じる訳 約束に要注意、現地の人々の予測不能だった現在

✎ 1〜 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 最新
拡大
縮小
『ロシアを決して信じるな』(新潮新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

そのことを考えるにあたり、もう1つ気になることがある。2015年2月に起こった、野党指導者ボリース・ネムツォーフ氏の殺害だ。

ネムツォーフ氏はソ連崩壊後のロシア改革を唱えるリーダーであり、エリツィン元大統領の政権下で副首相を務めた人物。人望も厚く、ポスト・エリツィンの指導者に名前があがるほどだったという。

2000年のプーチン政権発足以降は、言動がロシア保安当局からマークされるようになったため慎重に行動していたようだが、段階的に反プーチンの行動を拡大。2011年12月のロシア連邦下院選挙における票の水増しなどの不正を暴いたため、ロシア保安当局から追い込まれることになる。

かれはクリミア併合を強く非難し、さらに2015年2月には、親ロシア派勢力が牛耳るウクライナ東部にロシアは軍事支援していると声を荒らげた。
かれ自身、ロシア軍侵攻の秘密情報を入手したことをほのめかし、状況は一気に緊迫した。欧米派を自認し、プーチン氏と真っ向から対立するウクライナのポロシェーンコ大統領は、ロシアの干渉を強く非難しており、プーチン政権にとってネムツォーフ氏はウクライナ政権を支援する裏切り者となったのだ。(139ページより)

ネムツォーフ氏は2015年2月27日の深夜、クレムリンに隣接する橋を歩いているときに背中から4発の銃弾を浴びた。その2日後には、ロシア軍のウクライナ侵攻に反対する大規模な集会を予定していたという。殺害の容疑者についてロシア大統領府は調査を表明したが、犯行の全容はいまだ明らかにされていないようだ。主要メディアは事件を報道するものの、真実を解明しないというのだ。

プーチン政権の批判は危険

ネムツォーフ氏の殺害でわかったのは、ロシア領土の拡大をはかるプーチン政権を批判するのは危険なことだということである。ロシアを愛さないのは犯罪者になるどころか、命の危険にさらされてしまう。(140ページより)

この記述を目にすると思い出さずにいられないのは、「私はここにいる。武器を捨ててはいない。国を守り続ける。われわれの土地、国を守る。ウクライナに栄光あれ」と果敢に訴え続けるウクライナのゼレンスキー大統領のことだ。

画像をクリックすると、ウクライナ問題を伝える記事一覧ページにジャンプします

場所を変えながら軍や国民に向けた動画を通じてメッセージを発信する姿勢は大きな評価を得ているが、プーチン氏がその行動を容認するとはとても思えない。だからこそ、国を守ろうと奮闘する氏の命の危険を感じずにはいられないのである。

印南 敦史 作家、書評家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT