小泉改革の政治学 小泉純一郎は本当に「強い首相」だったのか 上川龍之進著 ~主要プレーヤーを利益最大化行動で分析
評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト
政治学の通説では、不良債権処理や郵政民営化などを断行した小泉元首相の強いリーダーシップの源泉を、個人的キャラクターだけでなく、制度改革に求める。小選挙区制導入によって与党総裁として保持する公認権や政治資金配分権の重みが増し、同時に、橋本行政改革によって経済財政諮問会議などが設置され、法的にも首相の権限が強化された点などを重視する。
評者も通説どおりの理解をしていたのだが、本書は異論を唱える。まず、2005年総選挙前には、首相の意向どおりの政策が必ずしも行われておらず、権力が首相に一元化されてはいなかった、と言う。さらに、05年総選挙後に見られた首相支配はむしろ例外的現象で、制度改革後も首相が思いどおり政策を決定するにはさまざまな条件が満たされる必要があった、と論じる。本書の特徴は、新聞記事や当事者の回顧録など膨大な資料を駆使し、政策決定に関与する主要プレーヤーの行動を、利益最大化行動の結果として分析している点にあり、大変興味をそそる内容である。
解散権や公認権がいかに重要と言っても、その行使は1度か2度に限られる。このため、実現のために政権を失っても構わないと考えるほどの強い情熱を持つ政策にしか適用されない、と言う。実際、01、02年に首相の意に反し補正予算が組まれたが、解散権や公認権をちらつかせることもなかった。
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