小泉改革の政治学 小泉純一郎は本当に「強い首相」だったのか 上川龍之進著 ~主要プレーヤーを利益最大化行動で分析

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 小泉首相は閣僚の選任で、派閥の推薦を無視したが、選んだ閣僚が必ずしも首相の意に沿う政策を行ったわけではない。不良債権の抜本処理に抵抗した柳沢金融相を更迭し、竹中氏を後任に当てたが、閣僚への統制を強めるには、こうした信賞必罰人事が有効と考えられる。しかし、これは特殊なケースで、信賞必罰人事が可能となる環境は通常はそろわない、と言う。有能な大臣となり得るのは、当該分野の専門家である族議員であるため、首相の意に沿う有能な後任者を見出せないのである。竹中氏のような忠実かつ特異な能力を有する人材を見出すことは通常は困難なのだろう。

高度に複雑化した現代社会では、政策形成に高い専門性が必要とされる。それゆえ、個別の政策分野に特化した官僚や族議員が政策形成を主導するのは止むを得ない。問題は、族議員、官僚、利益団体の鉄の三角形が強くなり、公平性が損なわれ、資源配分が歪み、経済成長が低下したことである。この打破を試みたのが小泉改革であり、この点は民主党政権も踏襲し、望ましいことだと言える。懸念は、政治主導の名の下に、専門性を軽視したように見える政策決定が増えていることである。

かみかわ・りゅうのしん
大阪大学大学院法学研究科准教授。専攻は政治過程論、政治経済学。1976年生まれ。京都大学法学部卒業、京都大学大学院法学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員、愛媛大学法文学部助手、同講師を経る。

東洋経済新報社 4725円 353ページ

    

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