黒田総裁は天才かつ秀才だが、間違っている なぜ無意味な金融緩和をするのか?

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そして今回、日本経済は景気が悪化したわけではない。順調だ。依然、潜在成長率を実際のGDP増加率は上回っている。物価は1%まで上昇率は低下したが、依然として流れが崩れたわけではない。日本経済は何の問題もない。こういうとらえ方だった。

では、なぜ追加緩和が必要なのか。それは、景気刺激策ではない。需要喚起でもない。それは、ひとえにデフレマインドの脱却が完全に達成されずに、もとに戻ってしまうリスクがわずかながら出てきたからということだ。そして、彼の言うデフレマインドとは、期待インフレ率の低下に他ならない。それに尽きるのだ。

期待インフレ率2%だけを最優先させていいのか

つまり、期待インフレ率2%が揺らがないようにするために、米国などと違って、インフレ率2%が期待のアンカーとなっていない日本においては、期待インフレ率が足元のインフレ率に影響される。

したがって、足元のインフレ率が1%へ低下したことは、期待インフレ率の低下、すなわち、デフレマインドから完全に脱却していないので(期待値のアンカーがインフレ率2%にないことの別の言い方、ということだろう)、その再来のリスクがある。だから、インフレにするために、追加緩和をしたということだ。

そして、インフレ率の低下は、原油価格およびその他資源価格などの下落によるものだという認識を示した。そして、コスト安は長期的にはインフレをもたらすが(景気が良くなることにより)、足元ではデフレとなるので、これと断固戦わないといけない。そして、為替を意識したものではなく、国内経済のことだけを考えて緩和をした、と主張した。

しかし、この緩和によって起こることは、急激な円安と、ETFなどの購入による株価暴騰だ。それらは、円安、コスト高で苦しむ中小企業、消費者をむしろ苦しくする。そして、それは認識していると黒田総裁は述べた。それにもかかわらず、思い切った、そしてこの先は何も要らないぐらいの大規模なモノを行った。そういうことになる。

これらをまとめれば、黒田総裁は、何が何でも足元のインフレ率を上げないといけない。それは、期待インフレ率を2%にして、2015年以降のインフレ率2%達成を確実にするためだ。そう考えているらしい。何よりも、期待インフレ率2%が重要なのだ。これには円安によるコストプッシュインフレによるモノだろうが、需要増による短期景気過熱によるインフレだろうが、何でもかまわない、それは関係ない、という認識のようだ。期待インフレ率2%が最優先なのだ。

これは間違っていないか。実体経済は二の次で、期待インフレ率を維持することが最優先というのは、どんな経済学からも、実務の立場からも出てこないはずだ。つまり、彼は実体経済をわかっていないか、重要度が低いと思っているのだ。昨日の記者会見からの結論だ。

私の誤解であることを願いたい。

小幡 績 慶応義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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