松尾:たとえば「目」という言葉は知らなくとも「丸いものが二つ、近くに並んでいる」、データからこの事実はすでに分かっています。
塩野:確かに相当な頻度で出てきますからね(笑)。
松尾:こうしたものが顔なんだよ、と教えてあげれば、「丸い黒い点が二つある、この特徴を顔の識別に使えばいいんだな」と分かるようになるわけです。
「結局、何ができるんですか?」は困る
塩野:松尾先生は普段、さまざまなところで我が国の人工知能研究の必要性について主張していらっしゃると思うのですが、世間一般の方は人工知能に対してどのようなイメージをもっていますか?
松尾:人工知能は、目に見えないものなので、そこの重要性はなかなか理解されないんです。けっこう難しい質問で、「結局、人工知能って何ができるんですか? 例を1つ挙げてください」と聞かれるんですが、ひとつ挙げてもあまり必要性を感じてもらえないんですよね。たとえば「将棋ができます」といっても、「将棋ロボットなんて昔からあったじゃないか」と言われてしまう。そういうことではなくて、知能というのは汎用性が大事なんですね。汎用性、なんでもできます、というところが武器です。
塩野:スマートフォンが登場したときもそうでしたよね。スマートフォンが登場したとき、携帯会社やメーカーの人でさえ、「こんなものは役に立たない。ソフト(アプリ)が必要だし、なんでもでき過ぎてダメでしょう」みたいなことを言っていましたからね。
松尾:先日も、政府系の委員会で、人工知能の重要性を説いていたら、「できることを1個挙げてください」と言われたんですね。「汎用性が大事なんです」と答えても、わかってくれない。ある種これは、これは文系による理系ハラスメントだなと(笑)。たとえば、文字入力ができる、と答えても、「だったらもうワープロあるからいいじゃないか」と言われる。そういうことじゃなくて、汎用性なんですね。これは、OSがない時代にOSが大事だよ、と言っても理解されなかったのと完全に同じなんですよね。
だから、人工知能についても、「知能のOSですから」という言い方をすれば、とたんにわかってもらえます。
塩野:それは確か、スパイク・ジョーンズ監督の映画『her/世界でひとつの彼女』も人工知能はOSっていう設定でしたよね。スマートフォンだって、登場したときは三流携帯だなんだと酷評されていましたが、スマートフォンは、iPhoneに代表されるように、プログラミングが可能で、自由にカスタマイズできるということが汎用性であり、新しい強みだったわけですよね。
松尾:人工知能においては、先ほど出てきたデータから特長量を取りだすという処理が大事なのですが、特長量を取りだすということがOS化されて汎用化されると、データを持っているプレイヤーはそこを通すと処理しやすくなるんですよね。
誰が主導し、データを所有するかが10年後のカギ
塩野:膨大な一次資料を持っている人が、そのOSにそれをぽーんと投げると、適切なフレームワークを参照し、構造化してアウトプットしてくれる、というイメージですね。それがすべてのPCに入っている、というのが未来ですね。今でいうDropboxやEvernoteに人工知能が搭載されたら便利ですね。企業のビジネスにおいては、誰が人工知能アルゴリズムを握るか、誰がデータを所有するかが今後10年の勝者と敗者を決めると思います。
松尾:そうですね。そういったところで人工知能の汎用性が認められると、かつてのパソコンやスマートフォンのように、一気に普及が進んでいくのかもしれません。
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