松尾:いずれにしても、表に立っているのは人間なので、実働は人工知能、受賞するのは人間という形にすれば、できそうですよね。
その場合はある意味で、ルールが限定された中での戦いになると思うんです。たとえば、自動車ができても、マラソンはマラソンですよね。要は、いくら速く移動できるからって、マラソンに自動車で出場したりはしないですよね。それはルールになると思うんです。研究についても同じことが言えるかもしれません。
だから、「ロボットはノーベル賞をとれるか?」という問いに対して答えるなら、潜在能力的にはできると思うんですが、ノーベル賞自体はもらえない、と思います。
塩野:そうなったら、ノーベル賞で、人間部門と人工知能部門をつくるというのはどうでしょうか? たとえば、人工知能を搭載した衛星から地球を監視して、悪いことをしている人間を見つけて取り締まる。その功績をたたえて、人工知能が人工知能部門平和賞を受賞する。
松尾:なるほど。それだったらいいかもしれません。というか、そもそも、ノーベル賞というシステム自体が人間的で面白いですよね。何とか賞、というのはたくさんあるけど、そのなかでたまたま賞金が高くて、たまたま賞へのポジティブなフィードバックが働いた結果、現在では世界一の賞となったわけですよね。それ自体は、人間がつくった「系」にすぎません。それが結果的に、研究者をモチベートし、業績を称えるシンボルとして流通している。こういった仕組み自体の作り方があって、それは再現可能なものだと思います。
塩野:ノーベル賞2ですか?
松尾:確かに、第2のノーベル賞のようなものを人工知能がつくって、人工知能が人間を表彰するというのも、空想として面白いですね。
コンピュータの小説家がデビューする?
塩野:ロボットにとって、得意な面と不得意な面があると思います。ロボットは、膨大なデータの何かを探しに行くというのは得意だと思うんですが、過去にノーベル賞を受賞した方のインタビューなどを見ると、その分野の常識にとらわれていなかったがために、かえって発見があったということもよくあります。
気づきや仮説を新たに設定する行為は、人間の大きな能力だと思います。そしてその先には、クリエイティビティ、広告の分野でいえばデザインとかキャッチコピーを作るような話につながると思うのですが、人工知能はいつかキャッチコピーを作れるようになるのでしょうか?
松尾:作れると思います。あるキャッチコピーがどれくらいの人に受けそうかは、いまはいろいろな形でテストできます。キャッチコピーくらいでしたら、それほど深い知識はなくとも言葉の組み合せで作っていけますから、それをいったん提示し、反応を見て手直ししていくような処理は、人工知能にもできるようになるでしょう。
塩野:その方向を伸ばしていけば、いつの日か小説も書けますか?
松尾:それは人工知能が作った小説に対して、どれくらい評価をしてくれる人がいるか、どれだけの人が小説と認めるかどうかによる話だと思います。実はいま人工知能学会でも、SF小説家の星新一のショートショートを書くプロジェクトが動いています。
塩野:何と! それは例えば、星新一の短編をすべて読み込んで、ストーリーをパターン化し、その中から面白そうなものを再構成して出力するようなやり方ですか。
松尾:大筋はそうです。難しいのはやはりストーリーの生成。ストーリーのレベルでどんな展開にしたらいいかを把握し、それを新しい物語として作り出すところが非常に難しい。
単語レベルで、この言葉が多く使われる、この単語の後はこの言葉が続く、といった解析は簡単です。一見すると星新一風のつながりはできますが、ストーリーとして見たときに、面白いね、星新一らしいね、と言われるまでになるには、相当高いハードルがあると感じています。
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