「自己実現を目指そう!」と言う上司がヤバい理由 多くの人が誤解する「マズローの欲求理論」
自分に運命づけられた「天職」を何がなんでもやり遂げる。これも自己実現のひとつの姿だ。この例で先の役員のイタさがわかる。自己実現は、自分の存在に関わることなのだ。上司は関係ない。本当に自己実現を目指す人間は、そんなことを言う会社にはむしろ見切りを付けて、さっさと転職してしまう可能性だってある。
人生100年時代のいま、ビジネスパーソンは「なぜ働くのか」を問われている。そんな現代のマネジメントや現場のビジネスパーソンに対して、マズロー理論は多くの示唆を与えてくれるのだ。
しかしマズロー理論は、原書を読まずに受け売りの人が多い。あくまで筆者の感触だが、マズローを語る99%の人が誤解している。たとえばこんな勘違いもある。
「欲求のピラミッド」を多くの人が誤解している
「マズローの欲求段階説」という言葉を聞いたことがある人は、多いかもしれない。この言葉を知っている多くの人は、図にあるピラミッドを思い浮かべて、こう言う。
「欲求は5段階ある。欲求は下から順番に満たされて、高い欲求が満たされるほど、人は満足する。一番上には自己実現の欲求がある」
この図は「間違い」とは言い切れないものの、マズローの真意を伝えていない。この図はアメリカで再版された際に追加されたものだ。確かにマズローは本書で「欲求段階説」を提唱したが、そもそもマズローはこの図を書いていないし、「欲求は5段階」とも言っていない。本書を監訳した神戸大学の金井壽宏教授も、本書の監訳者解説で「サケの滝登りのようなこんな図では、マズローの真意は伝わらない」と指摘している。
マズローは本書で欲求を大きく2つに分けている。欠乏(deficiency)を満たす欠乏欲求(D欲求)と、一人ひとりの人間の存在(being)そのものに関わる存在欲求(B欲求)だ。
このうち欠乏欲求はわかりやすい。たとえば「生理欲求」は「腹減った」、「安全欲求」は「危険なのはイヤ」。要は欠乏が満たされていない状態を考えれば理解できる。
存在欲求は、先に紹介した自己実現のことだ。なかには「自己実現? モチベーションが湧かないね」という人もいる。これは自己実現とモチベーションを誤解している。モチベーションとは「彼女がいない」から「モテる努力をする」というように、欠乏欲求を満たすものだ。自己実現欲求は、自分の存在価値のために脇目も振らずやり続ける。そもそも欠乏やモチベーションとは無関係なのだ。
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