「自己実現を目指そう!」と言う上司がヤバい理由 多くの人が誤解する「マズローの欲求理論」
マズローが本書で考え続けたのは、「よい企業とはどうあるべきか」だ。「自己実現を目指す人たち」が「よい企業」をつくり、「よい企業」が「自己実現を目指す人たち」を生み出す。本書のテーマは「いかにこの好循環をつくるか」なのだ。
人は誰でも潜在的に「より高い価値を発揮したい」という欲求をもっている。マズローは、このような「自己実現を目指す人」を「よい人」としている。
自己実現を目指す人は成長を続け、次第に大きな力を発揮するようになる。そして「企業が目指す使命」と「個人が目指すこと」が一体化すれば、個人は仕事にやりがいを感じ、精神的・身体的にも健全さを保って大きな力を発揮するようになり、企業の業績は上がっていく。
こうして企業と個人が目的を共有できれば、それ以外のあらゆる問題は「目的にふさわしい手段を選ぶ」という技術上の問題にすぎなくなる
「よい会社」は、このような環境を提供する。マズローはこのような「よい会社」を作るにはどうすればよいかを、考え続けたのである。
マズローが現代社会に与えた影響
本書は経営学と出会ったマズローが1962年に残した原稿をもとに出版され、現代の経営理論に大きな影響を与えた。本書刊行当時に新進気鋭の若手経営学者であり「本書は私にインパクトを与え続けてくれる知恵の泉」と言ったドラッカーは、その後多くの企業に影響を与えた。
マズローに心酔したインテル元会長のアンディ・グローブも、マズローの継承者の一人だ。マズローの考え方を取り入れて独自の経営手法OKRを生み出した。OKRは創業2年目のグーグルで採用されるや爆発的成長の原動力になり、シリコンバレーの企業に広まった。さらにOKRはBMW、ディズニー、サムスン、エクソンなどの大企業、日本でも花王などが導入している。
マズローの思想が経営の基本ルールになっている企業も多い。マズローがいなければ、ビジネスの世界は今とは大きく異なっていたかもしれない。本理論の発展を志していたマズローは、1970年に62歳の若さで他界した。誠に残念である。
60年前の本書は現代から見ると古い視点もあり、地域・女性・精神疾患への偏見もある。しかし、鋭い洞察は現代でも宝の山である。大著だが、機会をつくってぜひ一読されたい。
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