会社員の「脱サラ起業」が失敗しがちな根本的理由 「退路を断つ」よりもっと大事なことがある

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起業で大事なのはリスクを取ることではない。リスクのバランスを取ることだ。ある分野で収入を確保すれば、別分野で大胆にオリジナリティーを発揮する自由が得られる。中途半端な状態で焦ってビジネスを始めるプレッシャーからも逃れられる。すぐれた起業家はリスクを冒す人ではない。リスクを取り除く人なのだ。

③ アイデアの「質」よりも「量」で勝負する

もうひとつの成功のカギは「量」である。発明王エジソンの1000を超える特許には、電球・蓄音機・映写機など世界を変えた発明もあるが、フルーツ保存技術・おしゃべり人形・電子ペンなどイマイチな発明も多い。エジソンでも現実には悪いアイデアばかりだ。

天才といわれる創作者は必ずしもほかの人より創作の質がすぐれているわけではない。大量に制作しているケースが多い。モーツァルトは600曲、ベートーベンは650曲、バッハは1000曲以上作曲した。ピカソは絵画1800点、彫刻1200点、陶芸2800点、デッサン1万2000点を制作し、シェイクスピアは20年間で37の戯曲と154の短編詩を書いた。これらの膨大な作品の中で傑作はごく一部だ。

成功するためのカギ

天才でも自分で作品を正しく評価できない。自分で「これは傑作」と自信があっても、世間が「駄作」と評価することは多い。制作する本人は自作品の長所ばかり目につき、欠点を過小評価する。これを確証バイアスという。

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この確証バイアスから逃れる方法が、多作なのだ。まずは打席でバットを振ること。バットを振らないことにはヒットも出ない。より多くの打席に立ち、より多くバットを振れば、三振も増えるがより多くのヒットも出る。ホームランも出るかもしれない。そして人々が覚えているのは三振ではなく、ヒットやホームランなのだ。

成功のカギは、急がず、リスクを徹底的に避けて、量で勝負すること。確かに起業の目的を「他人を出し抜くこと」ではなく「成功すること」と捉えれば、グラントの指摘は大いに納得できる。こう考えると、安定収入を確保したうえでさまざまなビジネス経験ができる会社員の立場で、副業でじっくり時間をかけて起業に取り組むことこそが、成功への王道といえるだろう。

永井 孝尚 マーケティング戦略コンサルタント

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ながい たかひさ / Takahisa Nagai

慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMの戦略マーケティングマネージャー、人材育成責任者などを経て、2013年退社。同年、多摩大学大学院客員教授を担当。マーケティング戦略思考を日本に根づかせるため、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立。多くの企業・団体へ戦略策定支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供。2020年からはオンライン「永井経営塾」主宰。著書に60万部超『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ、15万部超『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』シリーズ(すべてKADOKAWA)など。著書累計は100万部超。

オフィシャルサイト

X(旧Twitter) @takahisanagai

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