会社員の「脱サラ起業」が失敗しがちな根本的理由 「退路を断つ」よりもっと大事なことがある

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不安には2種類ある。「本当に私なんかが起業できるのか」という自分への不安と、「こんなアイデアで起業できるのか」というアイデアへの不安だ。

大切なのは、アイデアの不安に向き合うこと。アイデアが不安なら、アイデアを突き詰めればいい。ワービーパーカーの4人は時間をかけてアイデアの不安に向き合った。

起業一本に絞らない

起業一本に絞らないことも大事だ。ワービーパーカーの4人はインターンや就職でリスクを分散していた。経営管理学研究者のジョセフ・ラフィーとジー・フェンは1994〜2008年に起業した5000人以上のアメリカ人を追跡調査した。本業をもちつつ起業した人は、起業に専念した人よりも起業の失敗確率が33%低かった。リスクを避け本業を続けつつ、アイデアの疑問を追い続ける人のほうが、存続する可能性が高い。

経営学者の入山章栄氏は著書『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」(日経BP)で、スウェーデンの研究結果を引用し「会社勤務と並行して起業するハイブリッド起業は、起業リスクを軽減できる。現代の日本は、脱サラして起業に失敗した人が再就職するのは難しい。ハイブリッド起業は、起業の失敗リスクを大きく軽減できる可能性がある」と述べている。

筆者の例で恐縮だが、日本IBMの会社員だった筆者が起業したのも、まさにハイブリッド起業だ。30代の頃から独立を考え、週末を使って写真家を目指したりと右往左往。具体的になったのが40代後半。会社の承認を得て、マーケティングの本を副業で書き始めたときだ。執筆を始めて3年目に『100円のコーラを1000円で売る方法』がベストセラーになったが、素人芸人が一発芸で話題になり独立後は全然売れないという話も多いので、「独立はまだ早い」と思って会社員と執筆の二足のわらじを続けていた。

そのうち講演・研修依頼をいただくようになった。平日の依頼は勤務中なので丁重に辞退したが、週末の依頼は会社と利益相反しない限り、無償で引き受けていた。

ある日、「ぜひ謝礼を払いたい」という会社があった。当時の私は人材育成部長として外部に社員研修を発注する立場だったが、その発注額と同額だった。「IBMを辞めても、私に依頼しますか」と尋ねると、「独立してくれると、お願いしやすくなるので助かる」というご返事。ちょうど『100円のコーラ』第3弾の刊行直前。第2弾の感触から確実に売れ、講演・研修依頼が急増することが予想できた。そこでこのタイミングで独立。今年で起業9年目だが、おかげさまでビジネスは順調だ。

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