会社員の「脱サラ起業」が失敗しがちな根本的理由 「退路を断つ」よりもっと大事なことがある
会社員は、脱サラして退路を断ち、起業に挑戦してはいけない。むしろ副業から入り、ゆる~く起業に挑戦すべきなのである。そこでまずはこんな事例を紹介したい。
やる気がない学生スタートアップが時価総額80億ドル
組織心理学者アダム・グラントのもとに、学生が出資を求めてやってきた。
「友だち3人とメガネのオンライン販売を始めたいんです」
「じゃあ、この夏はその事業立ち上げに捧げたんだね」
「いいえ。失敗すると困るので、企業のインターンシップに行きました」
「ということは、卒業してから事業立ち上げに専念するんだね」
「いいえ。念のために、全員別の仕事に就きます」
聞けば4人が納得する社名を付けるだけで6カ月間かかり、ウェブサイトすら未完成だという。「やる気もサイトもない。ダメだ、こりゃ」と考えたグラントは、出資を断った。
この会社は、その半年後の2010年に創業し2021年8月に上場、時価総額80億ドルに達したワービーパーカーである。ビジネス誌『ファスト・カンパニー』の「世界で最も革新的な企業」で1位に選ばれた。絶好の出資チャンスで判断ミスをしたグラント家では、その後の投資判断は妻がすることになったという。
「なぜ彼らの成功の可能性を見抜けなかったのだろう?」と考えたグラントは、独創性をもつ「オリジナルな人」の研究を始めた。そして起業にまつわる都市伝説を暴いたのが、グラントの著書『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』(三笠書房)だ。
グラントによると、成功する起業家は後発で、リスクを徹底的に避けてアイデアの量で勝負する。本書はこのことを圧倒的な数の事例と研究で実証している。
ここでは本書の3つのハイライトに絞って、紹介したい。
本書でグラントは「自分は早めに仕事を仕上げるタイプ」といっているが、これは必ずしも正しい方法ではないという。
博士課程のある学生がグラントに「先延ばしするほうが創造的になるのでは」と言った。そこで学生たちに新しい事業アイデアを考えさせる実験をした。コンピューターゲームをやらせて課題を考えるのを先延ばしにさせたグループの提案は、ゲームをやらせず考え続けたグループよりも創造性が28%高かった。頭の片隅に課題を置いてゲームをすることで、意外な可能性まで考えが及び、おもしろいアイデアが生まれたのだ。
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