いまだ達成できない「物価目標」なぜ2%に設定? 日本や欧米で政策が導入されていった背景

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現在世代にとって厄介なのは、いったん始めた補助金やポイント付与のような需要前倒し政策の打ち切りは、その時点で消費を停滞させることだ。それを避け続けると、結果としてゼロ金利が続く。

しかし、ゼロ金利が定着すると「期間限定のポイント効果」も働かなくなる。いっこうに経済が上向かなくなるのは前倒ししてしまったことによる需要の先細り、前倒し効果の減衰、両面で自然な現象である。

この状況で、「インフレ目標政策と中央銀行の独立性」という組み合せは政府の現在バイアス対策として有用だろうか。ニュージーランドのインフレ目標政策は、政府の現在バイアスがインフレに結びつく、という経験を前提として中央銀行に独立性を与え、成果を挙げた。

しかし、デフレが恒常化した状況では政府の現在バイアスはインフレという形では顕現化せず別の形で現れる。ここでは深入りしないが、中央銀行の独立性はなんのために必要なのか、必要ならどういう枠組みにすべきか、という再検討の必要性が生じているはずである。

2000年代以降、試練に直面したニュージーランド

なお、インフレ目標政策のフロントランナーであったニュージーランドは2000年代以降、さまざまな試練にさらされ、新たな模索が続いている。

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まず2003年以後、1970年代以降で最大の住宅価格変動が起こり、ニュージーランド・ドルは大きく変動し経常収支は赤字になり、家計債務と対外債務が急増した。インフレ目標政策が、金融市場の安定とマクロ経済の安定まで保証するものではないことが明白になったのである。このため、ニュージーランド準備銀行の政策スタンスは、資産価格バブルにも目配りするようになった。

例えば、ブラード総裁は2004年のスピーチで「資産価格バブルを抑えようとする中央銀行員は、まず人々に嫌われるだろう。バブルが膨らむプロセスでは誰でもバブルが好きだからだ。しかし、中央銀行は長期的に公益を考えて歓迎されない決定を下さなければならないときもある」とし、状況によっては、バブル抑制に金融政策で立ち向かう姿勢を示した。

これは、物価安定対応への特化を前提にした金融政策運営を求めるメインストリームの経済学や連邦準備制度のインフレ目標政策思想とは一線を画している。

さらに、2018年3月の政権交代時に、より大きな揺り戻しが生じた。新政権はニュージーランド準備銀行がインフレ目標に特化するのでなく、雇用も目標に加えるべきだ、と公約で主張してきた。それを踏まえ、労働党主導の新政権と合意したPTAでは、「持続可能な雇用の最大化」を中央銀行の責務に追加したと発表された。

メインストリームの経済学が提示した「中央銀行に2%程度のインフレ目標を課したうえで、独立性を与えインフレ目標の達成に専念させる」という枠組みは、ニュージーランドに限らず、欧米や日本でも安定的な最終到達点にはほど遠い。

前回記事:「外国人労働者≠移民」とする日本が陥る罠の怖さ
前々回記事:保育園「遅刻に罰金科すと、さらに遅刻増えた」訳

翁 邦雄 大妻女子大学特任教授、京都大学公共政策大学院名誉フェロー

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おきな くにお / Kunio Okina

1951年東京生まれ。1974年東京大学経済学部を卒業し日本銀行入行。1983年シカゴ大学Ph. D.取得(経済学)、筑波大学社会工学系助教授、日本銀行金融研究所長、京都大学公共政策大学院教授などを経て現職。著書に『期待と投機の経済分析――「バブル」現象と為替レート』(東洋経済新報社、日経・経済図書文化賞受賞)、『金融政策のフロンティア――国際的潮流と非伝統的政策』(日本評論社)、『日本銀行』(ちくま新書)、『経済の大転換と日本銀行』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』(ダイヤモンド社)、『移民とAIは日本を変えるか』(慶應義塾大学出版会) など。

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