「日本を過小評価する」日本人に伝えたい国際評価 元駐米大使と国際記者が語る「世界情勢の見方」

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田中:確かにロシアによる軍事力を背景にした国境線の変更を容認すれば、中国の南シナ海での一方的な現状変更の試みを抑えにくくなるのは間違いないですね。

しかし、日本は海に守られて外国との陸上国境もなく、地理的に恵まれていることから以前はあまり地政学リスクへの関心が高まりませんでした。私も安全保障に対する日本国民の意識はちょっと欧米やロシアなどと違うと思ったことはあります。

杉山:たしかに日本は島国で、地理的に恵まれていて、ともするとグローバルな視点から遠いというイメージがあったのかもしれません。ただ、日本はまぎれもなく海洋国家です。

世界の7割を占める海に出ていって活躍する日本には本来、豊かな構想力をもってグローバルに考えられる素地はありますし、考えないといけないでしょう。決してパロキアル(視野の狭い)な立場でいられる国民ではないわけです。

重要なのは「等身大の自信を持つこと」

田中:日本はアメリカと中国の2つの大国のはざまに位置し、その中で生き延びるための戦略がこれからも重要になります。米中は対立を深めていますが、地理的に中国と近い日本はアメリカとまったく同じスタンスはとれないわけで、日本の立ち位置や役割に米中双方から注目が集まっています。

杉山:客観的な事実として日本は国内総生産(GDP)で世界3位の経済大国です。それに、これは外交官生活の中で常々感じていたことですが、国際ルールを守り、約束したことを実行してきた日本への国際社会の信頼度は高く、相対的にみてほかの多くの大国よりも好かれています。そういうレピュテーション(評判)の高さは(日本が選出回数の最多記録を持つ)国連非常任理事国の選挙など、担当官として関わった多くの外交交渉の際に実感させられました。

田中 孝幸(たなか たかゆき)/国際政治記者。大学時代にボスニア内戦を現地で研究。新聞記者として政治部、経済部、国際部、モスクワ特派員など20年以上のキャリアを積み、世界40カ国以上で政治経済から文化に至るまで幅広く取材した。大のネコ好きで、コロナ禍の最中で生まれた長女との公園通いが日課(写真:田中孝幸)

田中:国内外で国際報道に携わってきましたが、2010年代になって日本の動きへの国際的な関心が一気に明らかに高まったように感じます。アメリカも同盟国を失望させる行動が目立ちましたし、世界各地で勢力を伸ばしている中国にも他国には身勝手に見える行動が多くみられました。そういう中で、いわば真面目で安定している日本への期待が高まっていると思います。

杉山:日本は大国だと言っていばったり、おごったりしてよいというわけでは決してないですが、自国を過小評価するのもよくないことです。グローバルスタンダード作りや国際法の世界は欧州が歴史的に大きな影響力を振るってきましたが、日本も等身大の自信を持って関与する時期に来ていると思います。これまでの国際ルールを守るだけでなく、能動的にルールメイキングにもっと貢献する必要があるということです。

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