「外国人労働者≠移民」とする日本が陥る罠の怖さ 「現在バイアス」「フレーミング」がもたらす影響

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また、高等教育の機会は日本国民と留学生のみに開かれ、定住外国人の子弟にはほぼ閉ざされている。2021年8月28日の『日本経済新聞』は、移民統合政策指数のなかで、外国人生徒の大学進学や入学後の支援策に関する「高等教育へのアクセス」の項目で、日本については、2010年以来「0点」が続いていると報じている。

欧州の経験に照らしても、こうした状況は、移民の子どもの孤立、将来の就職難、貧困、犯罪多発などにつながる可能性が高い。

海外に広がる「日本は外国人労働者を使い捨て」の認識

なお、移民統合政策指数における個別成績のなかでは、労働市場は比較的高い。しかし、日本は外国人労働者を使い捨てにして苛酷に扱っている、という認識は残念ながら海外に広がっている。

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2021年7月1日にアメリカ国務省が発表した世界各国の人身売買に関する報告書では、日本の外国人技能実習制度が指弾されている。国内外の業者が外国人労働者搾取のために悪用し続けていると指摘し、日本は「人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていない」とした。

それでも、コロナ禍が収束すれば、外国人労働者は再び大きく増加するだろう。現在、日本のさまざまな職場は外国人労働者に支えられ、日本は外国人労働者を抜きにしては回らなくなってきているからだ。企業の人手不足を外国人にたよることの目先の経済的メリットは大きい。日本社会に迎え入れるためのさまざまな費用をかけずにすむ安上がりな出稼ぎ労働者という位置づけは、政府や企業の短期的なメリットを大きくする。

他方で、そのことは、定住外国人やその子弟を日本社会から疎外し十分に教育を受ける機会を与えない状況が続くことを意味する。そしてそれは、将来の日本社会を不安定化させる。また、東アジアの少子高齢化が進むなかで、将来的に日本で働いてもよいと思う人々を減らしてしまう、という形でも長期的な社会的コストを大きくする。

「現在バイアス(現在の快適さを無意識に優先してしまい、問題解決は先送りする)」を強めるフレーミングは将来の日本社会に極めて大きな負担をもたらす可能性が高い。

前回記事:保育園「遅刻に罰金科すと、さらに遅刻増えた」訳

翁 邦雄 大妻女子大学特任教授、京都大学公共政策大学院名誉フェロー

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おきな くにお / Kunio Okina

1951年東京生まれ。1974年東京大学経済学部を卒業し日本銀行入行。1983年シカゴ大学Ph. D.取得(経済学)、筑波大学社会工学系助教授、日本銀行金融研究所長、京都大学公共政策大学院教授などを経て現職。著書に『期待と投機の経済分析――「バブル」現象と為替レート』(東洋経済新報社、日経・経済図書文化賞受賞)、『金融政策のフロンティア――国際的潮流と非伝統的政策』(日本評論社)、『日本銀行』(ちくま新書)、『経済の大転換と日本銀行』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『金利と経済――高まるリスクと残された処方箋』(ダイヤモンド社)、『移民とAIは日本を変えるか』(慶應義塾大学出版会) など。

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