「外国人労働者≠移民」とする日本が陥る罠の怖さ 「現在バイアス」「フレーミング」がもたらす影響
ドイツの経験を振り返ってみよう。ドイツは、日本よりも半世紀以上前に、ローテーション方式と呼ばれる帰国を前提とした外国人労働者受け入れ方式を採用した。
しかし、2010年10月、アンゲラ・メルケル首相は「私たちは、彼らはとどまることはない、いつか去る、と自分たちに言い聞かせ、自分たちを欺いていました。しかし、現実はそうではありませんでした。……もちろん、多文化社会を構築し、隣り合って生活し、お互いの存在を楽しむことを企図した多文化アプローチは完全に失敗しました」と総括した。
帰るはずだった出稼ぎ外国人に対するドイツ政府のサポートは当初、冷淡で不十分だった。だが、この人たちのかなりの部分は必然性を持って定住することになる。せっかく熟練労働者になった外国人を帰国させるのは企業にとって間尺に合わない。在住が長期化すれば家族を呼びよせることを認めるのは人道上、当然だ。
ところが、その人たちには、ドイツ語やドイツ社会についての教育機会が十分与えられず、このため、コミュニティを作って助け合うようになる。これも当然だ。ドイツ社会から疎外されていると感じ、ドイツ語も十分話せず、溶け込むことはないまま定着した人々の犯罪率は高く、ドイツ国民の外国人への反感を強めた。
外国人労働者は自然と日本社会に溶け込む?
本格的な移民の実質的な受け入れ開始から日の浅い日本では、移民との軋轢――犯罪、文化的・宗教的・政治的軋轢など――は欧米に比べ、格段に小さい。
単純労働者の海外からの受け入れによって生じうる悪影響のなかで、世論調査で日本国民が最も強い懸念を示してきたのは外国人犯罪だが、外国人刑法犯の検挙件数は、2005年の4万4000件をピークに減少を続け、2017年に一時的に増加したものの2018年には再び減少し1万6000件にとどまり、外国人はこれまでのところ決して治安悪化をもたらしてはいない。
こうしたなかで、日本人の多くは、外国人労働者は自然に日本社会に溶け込んでくれる、と思い込んでいるようである。
2018年のピュー・リサーチ・センターの各国でのアンケートでは、「外国人は同化を望んでいない」と考えている人たちの割合は日本ではわずか18%にすぎない。これほどの楽観は、他国には見られず突出している。ちなみに、同じ質問への答えの比率が日本に次いで低いメキシコでも37%、アンケート対象18カ国の中央値は49%、ドイツは58%である。
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