日本を惑わす「そう見えるでしょう経済学」の盲点 「財政出動で経済は必ず成長する」には根拠なし

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日本は、OECD33カ国中で政府支出が最も増えておらず、経済も成長していないことがデータで確認できます。これらの事実をとらまえて、一部の評論家は「政府支出を増やせば自動的に日本経済が成長する」と主張しているのです。

逆に、日本経済が成長しないのは政府支出が少ないからだと決めつけ、財政の健全化を訴え続けている財務省が元凶だとする話もよく耳にします。

「バラ色の未来」を語る経済政策のロジック

彼らが主張する経済成長のメカニズムは、以下のようなものです。政府支出が増えれば、市場に需要が増え、企業がその需要増に対応して設備投資を増やす。そうすると生産性も上がる。生産性が上がれば、賃金も上がる。つまり、政府支出を増やせば、賃金が「自動的」に上がるという理屈です。

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さらに、GDPが増えることによって、GDPに対する政府の借金の比率が下がり、財政も改善するとも言っています。

彼らはこのバラ色のシナリオを、MMTの理論を使って強化しようともしています。おそらくそれは「日本はすでに多額の借金をしており、政府支出を増やして借金をさらに大きく積み増すのは危険だ」という反論に対抗する意図があってのことでしょう。

MMTとは、「自国通貨を発行できる国の場合、政府がどんなに支出を増やしても国家が破綻することはない」という理論なので、この理論にのっとれば政府支出を大幅に増やすことが可能です。

確かに先ほどの図表を表面的に見ると、政府支出を増やすほど、経済は自動的に成長するような印象を受けます。なので、仮に政府支出を今の約2倍の200兆円に増やしたり、消費税を廃止したとしても、経済は成長するので、気にする必要はないというのが積極財政派の主張です。

彼らの説が正しいとすると、政府支出の増加によって需要も増えるので、デフレ脱却も可能だということになります。

しかし、最も大事な生産性の低迷の原因についての議論は、「生産性の低下はデフレの結果である」と片づけられてしまっています。

政府支出を絞っているマクロ政策の結果として需要が足りず、その結果、物が売れない。個別の企業が頑張って生産性を上げても、経済のパイは広がらないので、別の企業の生産性はその分だけ悪くなって、全体の生産性を上げることができないというのが彼らの主張です。つまり、生産性を上げていないから経済が成長しないのではなく、政府支出が増えないから需要が不足し、そのために生産性が上がらないという理屈です。

おそらく、この主張の背景には、政府支出が経済成長を決めるという、ケインズ経済学の「総需要至上主義」があるのでしょう。

次ページこの説が正しければ、どの国も経済政策には困らなくなる
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