日本を惑わす「そう見えるでしょう経済学」の盲点 「財政出動で経済は必ず成長する」には根拠なし
先に紹介した図表の理屈に関しては、論文を検証する以前に、多くの人がすぐに気づく問題点が浮かびます。それは税収と政府支出とGDPの関係です。
1972年から2019年までの期間の先進国の政府支出とGDP成長率の相関係数は確かに0.91です。しかし実は、税収とGDP成長率の相関係数も0.87で、ほとんど変わりません。
世界銀行のデータによると、先進国の2019年のGDPに対する政府支出の割合は平均19.1%でした。一方、税収は15.3%でした。財政の健全化はまだ多くの国の重大関心事なので、大きな財政赤字は注目されます。ですから当然、税収と政府支出の相関関係は強いはずです。事実、税収の総額と政府支出の総額の相関係数は0.98です。
「そう見えるでしょう経済学」的に相関関係だけを見れば、「税収を増やすことでGDPが成長する」という理屈も成立します。しかし、さすがにこの話は誰も信じないでしょう。
ここで確認しなくてはいけないのが、因果の方向性です。つまり、「GDPが成長したから政府支出が増えた」のか、それとも「政府支出が増えたからGDPが成長した」のか、ということです。
世界の経済学者はどのように論じてきたのか
では、政府支出とGDPの因果関係について検証してみましょう。
経済学を勉強した人なら、ワグナーの法則を思い出すのではないでしょうか。ワグナーの法則では、近代国家の性質上、経済が成長すればするほど、政府支出が増えるとされています。この法則に関してはその真偽について否定的な意見もありますが、19世紀から基本的な法則としていまだに使われています。
ワグナーの法則も含めて、経済学の論文を確認しておきましょう。
2019年の「Government Size and Economic Growth: A Review of International Literature」では、近年発表されている論文をもとにして、政府支出とGDPの因果関係について検証しています。
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