日本を惑わす「そう見えるでしょう経済学」の盲点 「財政出動で経済は必ず成長する」には根拠なし

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実は、政府支出がGDPの成長を促進するか、その逆かに関しては、主に4つの仮説が存在します。

(1)Keynesian view:政府支出は経済成長を促進する

この説では需要を重視して、政府支出が大きくなればなるほど、供給がリードされ、経済が成長するとしています。

(2)Wagner’s Law:経済成長に伴って、政府支出が増える

この仮説はワグナーの法則を基準にしています。政府支出は非効率なので、経済成長を促進しないとされています。主に新古典派の経済学者が支持する仮説です。

(3)Bidirectional causality view:双方的な因果関係

仮説1と2の中道として、経済が成長すれば政府支出が増えるので、それに伴いGDPがさらに増えて、政府支出が増える、つまりは好循環が生じるという説です。

(4)Neutrality view:政府支出とGDP成長は関係していない

この説は最も少数派です。政府支出と経済成長は別物で、互いに影響しあっていないとされます。この説では経済成長を政府部門と非政府部門に分けて、政府部門が伸びて経済が成長しても、非政府部門は恩恵を受けないと分析しています。

先の論文では、(1)に関して6本、(2)は22本、(3)は10本、(4)は12本の論文が確認されています。

この4つの仮説の中で、どの説も、データ、期間、国や地域、検証方法などによって、一定の因果関係が確認されています。

この論文の結論として、データの多さ、国の多さなどを基準に、総じて(2)、その次に(3)の仮説が最も有力としています。また、(1)と(4)の説を主張する論文も増えていることが指摘されています。

結論として、「政府支出を増やせば経済は成長する」と断言する根拠はない、と言えるのです。

「魔法にすがる」のをやめて、当たり前の政策を着実に

これまで投稿してきた記事でも指摘してきたとおり、政府支出の総額だけではなく、どのような内容の政府支出を行うかが重要だというのが、私の主張です。

政府支出には、成長を促す生産的支出もあれば、促さない移転的支出もあります。国によって、時期によって、その中身の割合が変わります。そのため、4つの仮説それぞれに一定の示唆があるものの、政府支出と経済成長の因果関係が不安定で決定的ではないのは、政府支出の中身次第で経済成長に与える影響が変わるから、というのが私の解釈です。

つまり、単純に政府支出を増やせばいいということではなく、「どういう支出を増やせば経済が成長するか」を真剣に検証するべきなのです。

日本のMMT論者には、「政府支出を増やせば経済は成長する」と言っている人がいますが、論理が単純すぎます。率直に言うと、この主張は間違いです。

さらに、日本のMMT支持者の中には、「日本は政府がどんなに支出を増やしても、財政破綻しない」と主張している人もいます。しかし、もし仮に「大幅に政府支出を増やせる」という主張が正しかったとしても、それは「無規律・無条件に政府支出を増やすべきだ」という主張を肯定する理由にはなりません。ただの飛躍です。

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