ミシュランシェフが「本気のおにぎり」作る理由 コロナ禍で「食は人を幸せにする」思いを強く

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──おにぎりは、昔から心を伝える手段でもあったわけですものね。シンプルで日常的だからこそ、より心にしみそうです。このプロジェクトが、海外にも広がっているのだとか。

成澤:はい、#onigiriforloveのハッシュタグをつけてSNSにのせたところ、世界のシェフたちが賛同してくれ、香港の「ランドマークマンダリンオリエンタル」の総料理長、リチャード・エケバスシェフが友人のトップシェフたちに呼びかけて、昨年7月から8月にかけて、香港で#onigiriforloveのイベントが行われました。トップシェフがそれぞれのクリエーティビティーを生かしたおにぎりを作り、それを販売した収益29万香港ドル(約420万円)は、全額地元のチャリティーに寄付されました。

日本の食文化根本にある豊かさを伝えていく

──おにぎりを作ることを「結ぶ」ともいいますが、まさにおにぎりが結んだ縁が、世界に広がっているのですね。

成澤:そうですね、おにぎりは、炊きたてのご飯があれば老若男女問わず、誰でも作れて、思いを届けられる、素晴らしい文化だと思います。コロナ禍がきっかけで料理を始められた方もいらっしゃると思うのですが、私たちの活動が、日本の文化の根本にある食の豊かさを、再度見直していただくきっかけになるとうれしいです。そんな意味で、これからも #onigiriforloveの活動は続けていく予定です。

(写真:LEON編集部)

──私たちが食べてきた食文化の本質を、未来につなげていく。そんな意味でも、政府からの時短営業要請が終わっても、「NARISAWA」の閉店時間を午後8時に据え置いたのは、大きなことだったのではないですか?

成澤:はい、うちはランチ営業もやっていますから、夜遅くまで営業すると、労働時間が長くなりますし、家庭のある女性のスタッフなどは働きづらい。これまでは女性スタッフには先に帰ってもらったりしていましたが、どうしてもチームの輪が乱れてしまう。今は、ワークライフバランスをとることが大切な時代です。新しいライフスタイルが定着した今、お客様に理解していただき、自分たちから業界を変えていきたい。飲食店のサステイナビリティーも、これからの美食文化を未来につなぐうえで、とても大切なことだと思っています。

──コロナ禍で、私たちは多くのものを失いましたが、それと同時に、大切なものはなんなのか、もう一度考える機会をもらったような気がします。

成澤:国境を超えた行き来が自由にできないからこそ、自国の文化を振り返る時間が取れるようになったと思います。今この時を、よりよい未来への変革のために、生かしていきたいものですね。

成澤由浩(なりさわ・よしひろ)
1969年、愛知県生まれ。19歳のときに料理の世界に入り、日本料理からキャリアをスタート。その後、8年間フランス、スイス、イタリアで研鑽を積む。帰国後、小田原に「La Napoule(ラ・ナプール)」をオープン、高い支持を集める。2003年に東京・南青山に移転し、店名を「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ」に。2011年「NARISAWA」に店名を改める。『ミシュランガイド東京』や「世界のベスト・レストラン50」などでも高い評価を受ける日本を代表する料理人の一人。「持続可能で心にも体にも有益な美食」を目指し、日本の里山にある豊かな食文化と先人たちの知恵を生かした「イノベーティブ里山キュイジーヌ」という独自のジャンルを確立。
HP/NARISAWA

文/仲山今日子 

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