中古車買取業者が語る「国産旧車価格」高騰の真相 バブル景気のように弾ける可能性もあると分析

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今も高い人気を誇る1980年発売の60系ランドクルーザー(写真:トヨタ自動車)

ランドクルーザーの旧車では、とくに1980年発売の60系や1989年発売の80系が人気で、価格が高騰している。この要因について、菊地氏は「今までクルマに興味がなかった層が、レトロでアウトドア的雰囲気を持つ外観のクルマに憧れて、購入する例が増えた」という。つまり、国産スポーツカー愛好家のような、昔からのクルマ好き以外の層からの需要が伸びたことが、価格高騰につながっているというのだ。

国産旧車高騰、今後の行方

今後の国産旧車の動向を語る菊地氏(筆者撮影)

菊地氏は、近年のような国産旧車の価格高騰について、あくまで私見と断りつつも、「今後の動きは不透明なものの、現在はバブル景気のようなものと考えられ、弾けたら下落する可能性は十分にある」という。理由は、「価格上昇に限界があるのはどんな市場でも同じで、国産旧車の分野でも、いつか止まるときがくる」からだ。

また、近年の国産旧車に対する急激な需要増は、タマ数不足の恐れもある。再生産されることがない旧車は、基本的に販売台数分しか市場に存在しないため、台数に限りがあるからだ。その点について、菊地氏は、「自動車メーカーも旧車を大事にしていく風潮が直近であるため、これまでと比べると(タマ数の減少は)緩やかになる可能性もある」という。

菊地氏のこうした分析は、近年、各自動車メーカーが、いわゆる名車と呼ばれる車種について、純正部品を復刻販売する動きが背景にある。例えば、トヨタでは、1960年代の名車「2000GT」や1980年代の「AE86型(カローラレビン・スプリンタートレノの型式名)」などの純正部品を復刻販売しはじめた。ほかにも日産は、スカイラインGT-RのR32型やR34型など、マツダは1989年に登場したオープンスポーツ「ロードスター」の初代NA型やRX-7、ホンダは1990年代に生産した軽自動車のオープンカー「ビート」などの部品を復刻販売している。

従来、国産車は「生産終了から10年を過ぎると純正部品が手に入りづらくなる」といった傾向があり、旧車愛好家は部品入手に苦労が多いといわれてきた。現在は、まだ一部の名車に限られてはいるものの、メーカーのこうした取り組みにより、部品が復刻される車種が増えれば、廃車になる旧車も減る。そうなれば、タマ数の減少にもある程度の歯止めがかかるというのだ。

カレント自動車で買い取ったケンメリGT-R(写真:カレント自動車)

ちなみに前出の車庫で10年以上埃を被り、不動車ながら400万円以上の値が付いたケンメリGT-Rは、所有者が逝去し、遺族からの要請で買取をしたという。菊地氏は、「最近は、こうした遺族から依頼を受けるケースも増えている」と語る。少子高齢化という日本の社会問題は、近年の旧車市場にも少なからず影響を与えているようだ。

また、菊地氏は、「最近は、コロナ禍で資金的に苦しくなり、長年乗ってきた古い愛車を手放すケースも多い」という。先が見えない昨今の状況下で、さまざまな要因が絡み合う国産旧車の市場だが、現在の活況がいつまで続き、どう変化していくのか、今後の動向に注視したい。

平塚 直樹 ライター&エディター

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ひらつか なおき / Naoki Hiratsuka

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなどの専門雑誌やウェブメディアの編集者を経てフリーランスに。生粋の文系ながら、近年は自動運転や自動車部品、ITなど、テクノロジー分野の取材・執筆にも挑戦。ほかにも、キャンピングカーや福祉車両など、4輪・2輪の幅広い分野の記事を手掛ける。知らない事も「聞けば分かる」の精神で、一般人目線の「分かりやすい文章」を信条に日々奮闘中。バイクと猫好き。

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